後発(ジェネリック)医薬品大手の沢井製薬が中堅製薬のキョーリン製薬ホールディングス(HD)に対して、持ち株会社方式による経営統合を正式に提案した。
キョーリンは気管支ぜんそく薬など幅広い新薬を手掛ける総合メーカーで、2010年3月期の連結売上高は997億円。これに対して、沢井製薬は後発医薬品の大手だが、売上高は500億円に過ぎず、今回の提案は「小が大を飲む」敵対的TOB(株式公開買い付け)に発展する可能性もあり、業界や市場関係者の注目を集めている。
キョーリン完全子会社化に必要な資金1300億円程度
キョーリン側は「提案は当社の事業環境に対する認識や戦略と合致しない」などとして、経営統合を拒否している。しかし、沢井は開発競争の激しい製薬業界で生き残りをかけ、キョーリンの新薬技術を取り込むことを目指している。沢井はキョーリンの拒否表明後もラブコールを送り続け、2011年1月14日までに提案を拒否する理由を合理的に説明するよう求めているが、両社の交渉が進展する可能性は低い。
売上高で劣る「小」の沢井が、「大」のキョーリンを狙うのは、キョーリンの株価が伸び悩み、比較的安価だからに他ならない。2010年12月27日終値で株価はキョーリン1407円に対して、沢井は6710円、時価総額は約1050億円でほぼ並んでいる。市場の株価にプレミアムを上乗せしても、キョーリンの完全子会社化に必要な資金は1300億円程度ともいわれ、沢井は社債発行などで資金を調達できると踏んでいる。
沢井が身の丈を越えるキョーリンの買収に水面下で動き出したのは2010年の夏にさかのぼる。これには理由がある。
ジェネリック医薬品は、特許切れの新薬の技術を用いるため、薬価が新薬の2~7割と安い。厚生労働省は増大する社会保障費を抑えるため、ジェネリック医薬品の利用割合を現行の2割から3割以上に増やすよう呼びかけている。
新薬開発の技術取り込まないと生き残れない
このため、第一三共や米ファイザーなど大手製薬メーカーはジェネリック医薬品に参入しており、開発競争が激化。このためジェネリック医薬品の専業メーカーである沢井も、新薬開発の技術を取り込み、ウイングを広げないと業界で生き残れないというわけだ。
沢井がキョーリンに行った提案は、持ち株会社「キョーリン・沢井製薬ホールディングス(仮称)」を新設し、傘下に沢井、杏林製薬と関連子会社を置くというものだ。2014年3月期の売上高を現状の両社合算よりも約12%増の約2320億円、営業利益を約21%増の約410億円と見込むなど、「ジェネリックと新薬の融合」(沢井光郎社長)による両社の統合効果は高いと主張している。
沢井は既にキョーリン株を買い進め、同社の発行済株式の約4.8%を取得。創業家などに続く第4位の株主に浮上している。しかし、キョーリン株は約4割を創業家一族が保有しており、TOBなどには応じない姿勢を示している。
このため市場関係者の間では、残る株主から沢井が過半を取得するのは困難との見方も出ている。沢井は2011年2月末までに両社が合意できない場合、「今回の提案は失効する」としているが、その後の展開は予断を許さない。