出発ギリギリに空港に行き、電車に飛び乗る感覚
欧州を拠点に活動するクリエーターの高城剛氏は、著書「70円で飛行機に乗る方法」でLCCについて「30分前ギリギリに空港に行って、電車に飛び乗る感覚に近い」と書いている。仕事でほぼ隔週で国際線を利用するという高城氏だが、プライベートでも友人から、「おいしいものを食べに行こう」「友人のパーティーに来ないか」と届く誘いの行き先は欧州内の別の国だという。もはや「外国」という考え方ではなく「ちょっとそこまで出かけてくる」といった様子だ。
もちろん、「空港が中心部から離れている」「時間に遅れる」といったデメリットがないわけではない。ブック氏は、あるLCCが「デュッセルドルフ-ローマ往復99セント(約80円)」と破格の値段を打ち出してきたときに利用したが、「顧客対応が最悪で、遅延ばかり。二度と利用しません」と語る。
だが、これも発想ひとつで変わる。ロスゴ氏のように、安いのだから「多少の遅延は覚悟のうえ」と割り切る人もいる。特に学生のような「時間はあってもカネはない」という層にとっては、何より低運賃で旅行できることに魅力を感じるはずだ。一方、ブック氏がよく利用する独エアベルリンのように、最安値を追求しない代わりに一定の機内サービスを提供するLCCも登場するなど、LCC各社は多様化してきている。
エアベルリンに取材すると、「高品質のサービスを安価に提供する『ハイブリッド航空会社』を目指しています」(同社広報部)との答えが返ってきた。LCCが客に支持されたのは、「既存の航空会社にはなかったシンプルな価格設定」を理由に挙げる。だが同じタイプのLCCが増えて、客は「高価格、贅沢なサービス」か「低価格、サービスなし」の両極端の選択肢しかなくなってしまった。
その「中間」を求める客層を掘り起こすため、レジャー客とビジネス客両方に対応できる「激安ではないが、一定のサービスを提供」というビジネスモデルを採用したと同社では説明する。
おかげで欧州では、利用者個々の生活スタイルや金銭的、時間的な余裕の有無などそのときのニーズにあわせて、いろいろなLCCから好みのものを選び、旅行ができるようになった。
増加したLCCの間で淘汰も起きてきた。エアベルリンも、オーストリアのニキ航空やスイスのベルエアーになどに出資してグループ傘下に置き、国内外の航空網を充実させて、「勝ち組」となりつつある。