2010年は「円高」に振り回された年だった。1995年に1ドル80円を割って以来15年ぶりに80円をうかがう水準にまでなり、それに対応して日本政府はドル円マーケットで「介入」を行った。
そこで2011年の外国為替相場の予想だが、その前に予備知識としてマクドナルドの「ビッグ・マック」について書いておきたい。
スイスやブラジルよりも安い、日本のビッグ・マック
「ビッグ・マック指数」というのがある。世界的な英経済誌「The Economist」が各国でのビッグ・マックの値段を定期的に調べて発表しているものだ。最新のデータは2010年10月13日付のもので、当時は1ドル87.3円だった。今はそれより5%円高であるとして価格を調整すると、以下のようになる。
ビッグ・マックの値段
(英エコノミスト誌のデータを元に筆者作成)
香港 158円
中国 162円
韓国 234円
イギリス 289円
日本 320円
米国 310円
オーストラリア 318円
ユーロ 359円
ブラジル 408円
スイス 513円
ノルウェー 598円
どうだろうか。日本のビッグ・マック(320円)は米国(310円)やユーロ圏(359円)と比べて特段高いことはない。むしろスイス(513円)などよりはるかに安いし、ブラジル(406円)と比べても相当安い。これは円の価値はそれほど高くない、つまり円高ではない、ということを示している。そして、こうした状況はビッグ・マックという商品についてだけでなく、一般的にも当てはまる。
極端な円安になると食糧もエネルギーも買えなくなる
多くの経済学者が「円高否定論」を唱えているが、その根拠は「デフレ」にある。デフレとはモノの値段が継続的に下がっていくことだ。モノの値段が下がるということは、通貨の価値が上がることに同じと言ってもよい。つまり、「円が強くなる」ということだ。
今は、諸外国に比べて日本の物価が上がっていないので、円が相対的にどんどん強くなってしかるべきところだ。しかし、実際はそれほど円高になっていない。物価を加味した為替レート(実質レート)の統計を日本銀行が出しているが、それをみると過去10数年間、円は恒常的に過小評価されてきたことがわかる。実力的には、今は1ドル60円であったとしても全然不思議ではない状況だ。それくらいの「円安」なのだ。
ただし、為替レートはモノの値段の比較(購買力平価と呼ばれる)だけで決まるわけではない。経済状況をはじめ、政治的状況、金融財政政策、金利、資本収支・・・等々ありとあらゆる要因が関係してくる。
そこで2011年だが、1ドル85円から95円くらいのレンジを予測している。これは、日本経済の問題点が明るみに出ること、外国(外貨)投資が活発化すること、米国経済が徐々に回復していくと考えられること、の3つの要因からだ。購買力平価でみれば円が比較的安い、というのはそのとおりだが、2008年のリーマンショック以来、1ドルが110円から80円台になったことでひとまず円高への動きがおさまったとみている。
日本では円高の問題点が指摘されることが多いが、円高とは日本人が相対的に豊かになることであり、本質的には望ましいことだ。日本が戦後に奇跡的経済成長を遂げたのも、その多くの部分は円が強くなったおかげだ。逆に言うと、今後極端に円安に振れたとしたら、われわれは食糧もエネルギーも買えない悲惨な状況に陥るだろう。円が強い間に、そのメリットを最大限に享受しておく、というのが正しい態度だと思う。
枝川二郎プロフィール
枝川二郎(えだがわ じろう)国際金融アナリスト
大手外資系証券でアナリストとして活躍。米国ニューヨークで国際金融の最前線で活躍。金融・経済のみならず政治、外交、文化などにもアンテナを張り巡らせて、世界の動きをウォッチ。その鋭い分析力と情報収集力には定評がある。