民主党政権下の2010年は、国民には厳しく公務員には優しい1年だった。
内閣府が発表している景気動向指数(一致指標)で見ると、10年1月に99.2であったが、直近の10月では100.8とあまりかわりばえがしない。10年の8月頃に良くなり、その後に悪くなって悪化傾向が続いているので、気分は良くない。
しわ寄せがすべて新卒者に集まっている
完全失業率は、1月は4.9%であったが、3月に5.0%と5%台にのると、そのまま大台を維持して、10月は5.1%である。これもまったく改善していない。特に、新卒者の就職は厳しい。私も大学で教えているが、学生の就職はほんとうに大変だ。日本では、正規雇用者が優遇され、非正規雇用が厳しい雇用環境に置かれるが、新卒者は非正規雇用にもなっていないので、さらに酷い。しわ寄せがすべて新卒者に集まっている感じだ。新卒者がえり好みをして大企業ばかり狙っているとかいわれるが、そもそも景気が回復せずに雇用環境が酷すぎるのだ。
物価については、相変わらずデフレが続いている。消費者物価指数(除く生鮮食品)の対前年同月比でみて、1月はマイナス1.3%、その後も9月までマイナス1%台であった。10月はマイナス0.6%とやや改善したといっても、いまだにマイナスの世界であり、デフレ脱却にはほど遠い
デフレも円高もそれぞれモノと他の通貨(ドル)に対して相対的に円の量が少ない時に起こる現象で、根っこは円の過小供給である。
対ドルの為替レートは、1月のはじめは93円台をつけた。その後、4、5月に一時円安に揺り戻したときもあるが、円高基調は続き、10月末には80円すれすれで史上最高値に紙一重までいった。今は、若干落ち着いて83円程度のやや円安に戻しているが、為替レートの今後の動向は、物価とともに、金融政策次第である。
雇用も物価と裏腹の関係にあることは、古くからフィリップス曲線として知られている。要するに、デフレも円高も高失業率もすべて金融政策の如何にかかっているのだ。だから、米国では、バーナンキFRB議長が大統領よりも経済の面では重要だといわれる。先進国ならデフレ、円高、高失業率で国民を苦しめれば、金融政策の失敗で責任問題になるだろう。今の日銀総裁を選んだのは事実上、民主党であるので、当然選んだ責任もとらなければいけない。
どこへ行った「天下り禁止」
その一方で、公務員は優雅だ。まず失業の心配がない。退職しても天下りがある。民主党政権は天下り禁止といいながら、政権をとったら抜け道ばかりを作った。自公政権下で、「裏下り」など天下り禁止の脱法を取り締まる再就職等監視委員会という組織ができたが、民主党は肝心の委員人事を野党時代も反対し、与党になっても委員人事を行わず、結局監視委員会を骨抜きにした。その一方で、6月に退職管理基本方針を作って、これまで「裏下り」とされた禁じ手を堂々と合法化した。たとえば、現役出向の制度を若手から管理職に拡大した。これは出向だから天下りといわないとは、あきれる詭弁だ。
また、民間が大きく給与ダウンしているが、公務員給与はほとんどダウンしない。前回書いたように、ベースとなる人事院調査がおかしいのだが、わずか1.5%減だ。
そこで、11年がどうなるか。ずばり11年は増税の年になる。それは、10年12月22日に交わされた野田佳彦・財務相と細川律夫・厚生労働相、玄葉光一郎・国家戦略担当相(民主党政調会長兼務)の合意文書で、(1)11年度は鉄建機構の剰余金(1.2兆円)、財政投融資特別会計の積立金と剰余金(1.1兆円)、外国為替資金特別会計の剰余金(0.2兆円)で賄う、(2)12年度以降は税制の抜本改革によって財源を確保する、
と書かれていることからわかる。
これは、もう埋蔵金発掘はやめて、消費税増税という意味だ。そのために法案を11年の通常国会に提出する。増税の前にやることがあるので、増税を言うなら国民に信を問うべきだ。
06年予算以降、毎年埋蔵金はないといいながら12月になると出てきた。今度もまた性懲りもなく「ない」といっている。はたして本当だろうか。さらに、デフレ脱却すれば、自然増収で増税は必要ない(しかも、円高や高失業率も直る!)のだが、それらをやらずに、増税だけはしっかりいう今の政権はこまったものだ。
なお、増税が要らないことは、近著「消費税『増税』はいらない! 財務省が民主党に教えた財政の大嘘」(講談社)をごらんいただきたい。
++ 高橋洋一プロフィール
高橋洋一(たかはし よういち) 元内閣参事官、現「政策工房」会長
1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2006年からは内閣参事官も務めた。07年、いわゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。10年から嘉悦大学教授。著書に「さらば財務省!」、「日本は財政危機ではない!」、「恐慌は日本の大チャンス」(いずれも講談社)など。