高所得者層の負担が重くなることが特徴の2011年度税制改正大綱をめぐり、海江田万里経済財政相の発言が波紋を広げている。給与所得控除の上限となることが決まった年収1500万円について、「金持ちじゃない。中間所得者だ」と述べたものだ。「金持ち増税」批判に反論した形だが、実際に年収1500万円の給与があるのは、約1%しかいない。
海江田氏が出演したのは、2010年12月19日朝にフジテレビで放送された報道番組「新報道2001」。この日のテーマは12月16日に閣議決定されたばかりの11年度の税制大綱だ。
「年収1500万円が金持ちかといえば、金持ちじゃないですよ」
新しい税制大綱では、会社員の年収から一定額を「必要経費」などと見なして所得税や住民税を軽減する「給与所得控除」が縮小されることになっている。特に、年収が1500万円を超える人の控除額は245万円で頭打ちになり、事実上の増税となることから、「富裕層を狙い撃ちしている」との批判も出ていた。
番組の中でも、平井文夫・フジテレビ報道局専任局長が、同様の批判を展開した。平井氏が海江田氏に
「やっぱり、『お金がほしい、出世したい、人よりもいいもの食べたい、いい服が着たい』というのが資本主義のモチベーションですよね?金持ち増税って、そういうものを否定するって言うかね、社会主義とは言いませんが、肝心要のところが否定されると、先ほどの企業減税があっても、(企業は)どこに投資すればいいかわからない。リッチシニアがいても、どこにお金を使えばいいかわからない」
と疑問をぶつけた。海江田氏は「もちろん私たちは金持ちなんていう言葉は一切使っておりませんし、それからそういう批判があることはわかっています」としながらも、
「金持ちとか金持ちじゃないというのは、例えば年収1500万円が金持ちかといえば、金持ちじゃないですよ、これは。まだまだ、中間所得者ですよ」
などと反論。「年収1500万」は、いわゆる高額所得者や富裕層には当たらないとの考えを示した。さらに、
「今回は払う力・能力のある方には負担していただきましょうね、というのが私たちの考え方」
とも説明した。
海江田氏の資産額は4500万円で「マス層」?
では、「年収1500万円」というのは、実際には、どのくらいの水準なのだろうか。国税庁が10年9月に発表した民間給与実態統計調査によると、09年に1年を通じて勤務した給与所得者数は4506万人で、1人あたりの平均年収は406万円。そのうち年収が1500万円を超える人は45万4000人。全体のわずか1%だ。
では、いわゆる「富裕層」という層は、どの位の厚みがあるのだろうか。富裕層向けのSNS「YUCASEE」(ゆかし)が対象にしているのは、「金融資産1億円以上の富裕層」だと明記されている。また、富裕層マーケットに関するアンケートを定期的に行っている野村総合研究所でも、本人と配偶者が保有する金融資産の額が5000万円以上1億円未満の層を「準富裕層」、1億円以上5億円未満を「富裕層」、5億円以上を「超富裕層」と、同様の定義をしている。なお、金融資産には、一般的には不動産は含まれない。
野村総研の調べによると、07年時点での超富裕層・富裕層は90万3000世帯で、全国の世帯数4961万世帯に対する割合は、1.8%。税の捕捉率などの問題もあり、これが「年収1500万円」以上のサラリーマン層だとは断定できない。ただ、いずれも全体に占める割合は非常に少ないのは確かだ。
なお、10年10月29日に発表された閣僚の資産一覧によると海江田氏の資産額は4500万円。閣僚18人のうち5番目に多い。だが、海江田氏の資産のうち約2860万円が一戸建てやマンションなどの不動産なので、金融資産の額は、所有する株式の価格にもよるが、せいぜい2000万円程度だ。前出の野村総研の分類によれば、「準富裕層」「アッパーマス層」に次ぐ「マス層」(本人と配偶者が保有する金融資産が合計3000万円未満)に分類される。