米アップルが運営するアプリケーション配信サービス「アップストア」で、著作権を無視した海賊版アプリが販売されたことが波紋を広げている。発覚後もなかなか削除されず、権利者はアップルに不信感を募らせている。
「アイフォーン(iPhone)」でも問題が指摘された。18歳未満に販売する場合に義務付けられる「フィルタリング機能」が取り付けられていないという。総務省によると、国内の携帯電話でこのような不備が見られるのはアイフォーンだけ。いずれのケースも対応の不十分さが浮き彫りとなった。
「日本法人ではすぐに決められない」
iPhoneのフィルタリングサービスは各自で設定する
村上春樹さんの「1Q84」や東野圭吾さんの「秘密」など、ベストセラー作品の電子書籍アプリがアップストアに現れたのは、2010年11月上旬。ところが、これらは著作権をクリアしていない「海賊版」だった。一つのアプリが削除されると、別の違法アプリが顔を出す。日本語版はもちろん、中国語版など外国語のニセモノ電子書籍も販売されていた。
アップルは、アップストアで取り扱うアプリに厳しい審査を行うと言われる。一定のガイドラインは明らかにされているが、審査過程までは公開されておらず、具体的な理由が告げられずに「不採用」となるアプリも少なくない。特に「わいせつ」の基準には厳格なようで、2010年2月には既にアップストアで配信されていたにもかかわらず、「お色気系」アプリが大量に削除されたこともあった。一方で今回、著作権無視の海賊版アプリがどうして審査に引っかからなかったのかは疑問だ。
日本書籍出版協会など4団体は12月14日付けで、アップルジャパンに要望書を送付した。「アップル社が明白な著作権侵害物を配信することは、違法行為の幇助であり、それ自体が違法と判断せざるを得ません」と厳しく指摘。今回の海賊版に関する売り上げなど情報の開示や、今後の防止策構築について強く求めた。日本書籍出版協会に取材すると、今回の海賊版問題では、作品の著作権者がアップルに違法アプリの削除を求めても、「日本法人ではすぐに決められない」などと対応に時間がかかり、違法状態のままアップストアで販売が続けられたそうだ。誰にどのような手順で削除要請をすればよいかも不明なままだという。「正当な権利者から削除の申告があったら、アップルはすぐ対応してほしい」と同協会は訴える。
「後ほど連絡します」といったまま音沙汰なし
海賊版問題で揺れるなか、別の問題も浮上した。総務省のワーキンググループ(WG)で、アイフォーンのフィルタリングの不備が問題視されたのだ。
2009年に施行された「青少年インターネット環境整備法」では、18歳未満に対して携帯電話やPHSを販売する際、有害な情報にアクセスしないようにするため、保護者の申し出がない限りはフィルタリングを設定することを携帯電話事業者に義務付けている。だがアイフォーンの場合、購入者が各自で設定、あるいは必要なアプリをダウンロードする仕組みだ。その際に「iTunes」の個人アカウントが必要になるため、結果的にフィルタリングの利用の有無は購入者に委ねるしかなく、販売時に業者側が設定するのは困難だ。
総務省消費者行政課に聞くと、販売時にフィルタリングが設定されない機種はアイフォーンだけだという。この点を重視したのが、総務省の「青少年インターネット ワーキンググループ(WG)」だ。12月14日付けで、アップルジャパンのダグラス・ベック社長宛に質問状を送付。アイフォーンがフィルタリングサービスを実装せずに販売している理由はなぜか、フィルタリング用アプリを、アイフォーン販売時に店頭でインストールすることに支障があるのか、といった点をただしている。現段階では、フィルタリングの不備が明らかに「違法」とは言えないようだが、WGは次回2011年1月下旬に開催される予定で、それまでにアップルからの回答が寄せられれば議題にのぼり、その内容いかんで「アップルはきちんと対処すべき」との結論が出れば、「次のステップに進む」(総務省消費者行政課)ことになる。そうなれば行政指導などの可能性が出てくる。
J-CASTニュースでは、アップルジャパンに電話で2度にわたり、海賊版アプリとフィルタリングの2点について取材を申し込んだが、いずれも「広報担当者不在のため、後ほど連絡します」との対応だった。その後も連絡はこなかった。