航空業界の風雲児二人の間で行われた「賭け」が話題になっている。英ヴァージングループ総帥のリチャード・ブランソン会長と、マレーシアに本拠を構えるエア・アジアのトニー・フェルナンデスCEO(最高経営責任者)が、互いにスポンサーを務める自動車レース「F1」のチームの年間順位を競ったのだ。
結果はフェルナンデス氏の勝利。実は負けた方は、女装したうえで相手の航空会社の客室乗務員(CA)として搭乗する約束をしていた。
「バッジと制服を渡したよ」
ブランソン氏は、F1で自社の名を冠したチーム「ヴァージン・レーシング」を率いる。一方フェルナンデス氏は、2010年に「ロータス」の代表として参戦した。ことの発端は2009年12月。F1のシーズンを前にフェルナンデス氏は、「成績がブランソンのチームを上回ることが第一。できなかったら死んでお詫びするしかない」と、冗談めかしつつも過激に決意表明したのだ。
実はフェルナンデス氏は、かつてヴァージングループに勤務していた。現在は航空産業で競い合うライバル相手に、F1でも負けるわけにはいかないと思ったのだろう。このフェルナンデス氏の「挑発」にブランソン氏が乗った。「我々だって勝ちたい。だが、死ぬというのはよくない」とし、「お互いに航空会社を経営しているのだから、負けたら相手の航空会社のCAとして勤務する、というのはどうだろうか」と、「罰ゲーム」を提案したのだ。これを聞いたフェルナンデス氏が受諾し、賭けが成立した。
ところが2010年のF1シーズンのチーム成績は、ロータスが12チーム中10位だったのに対して、ヴァージンは最下位。提案したブランソン氏が「女装」するハメになってしまった。順位が確定した10年11月15日、フェルナンデス氏はツイッターでこう呟いた。
「この後は、リチャード・ブランソンの(CAを務める)フライトが待っている。(エア・アジアの)バッジと制服を(ブランソン氏に)渡したよ」
ウエディングドレス姿で登場したことも
フェルナンデス氏はさらに、12月11日のツイッターで、ブランソン氏が11年2月21日のフライトでCAを務めることが決まった、と発表した。ロンドン・スタンステッド空港を朝出発し、マレーシアのクアラルンプールに向かう便だという。
機内では、ブランソン氏はエア・アジアの赤い制服を身に着けて、化粧したうえにハイヒールを履くそうだ。英デイリーメール紙(電子版)によると、フェルナンデス氏はさらに「ブランソン氏には、スネ毛も剃ってもらおう」と話したという。通常エア・アジアの航空券はウェブサイトで購入するが、この「特別フライト」はオークションサイトで販売され、売り上げは寄付に回される模様だ。
一代でヴァージン・グループを築き上げ、英国で「ナイト」の称号を贈られるなど地位も名誉もあるブランソン氏だが、目立つ振る舞いは嫌いではないようだ。これまでも自ら広告塔としてメディアに登場したことが何度もある。英テレグラフ紙によると、1996年にブライダル関連事業を立ち上げたときは、ウエディングドレス姿の花嫁に扮して報道陣を圧倒してみせた。化粧品販売ビジネスを開始した際にも、ドレス姿を披露した。今回も約束どおり、真っ赤な制服に身を包み、機内で乗客に笑顔を振りまくブランソン氏が見られそうだ。