性行為表現を巡って規制されるのは、どんな漫画・アニメか――。東京都の青少年健全育成条例の改正案が成立し、ネット上では、その具体的な作品がいくつか取りざたされている。
「どんな漫画が対象か、ちょっと分かりかねるところがあります。逆に、『これならダメ』と、教えていただきたいほどですよ」
バナナや練乳を使った妄想シーン
東京都主催のアニメフェアに真っ先に出展拒否を打ち出すなど、条例改正に不満を表明していた角川書店では、総務人事部の担当者が、こう困惑げに話す。
今回の条例改正では、強姦や児童への淫行など刑事罰の対象になったり、近親相姦に当たるものであったりする性行為について、不当に賛美または誇張した漫画・アニメが18歳未満への販売規制対象になる。
都の青少年課では、規制はあくまで限定されたものだと強調し、「強姦などのシーンが出ているだけでなく、『お互いに気持ちよいものだ』などと、社会的に是認できないものを延々と執拗に描いているものになります」と話す。
ところが、出版界では、その規制範囲が不明確で条例の表現があいまいだとの批判が強いのだ。
前出の角川書店担当者は、そのことを指摘したうえで、「まだ現時点では、対策を話し合うところまで行っていません」と言う。
規制対象になりうると都から例示されたのは、今のところ1つの作品ぐらいしかない。それは、猪瀬直樹副知事が2010年3月に、テレビ番組やブログで指摘した漫画「奥サマは小学生」(秋田書店)だ。
この漫画は、少年誌「チャンピオンREDいちご」に連載され、08年11月に単行本として発売された。小学生への淫行そのものは出てこないが、バナナや練乳を使った生々しい妄想シーンが出てくる。
副知事は、10年3月23日のブログで、セックスシーンが出てくるのに18歳未満でも書店で買えるとして、「ひどい本があるねえ」と憤りを露わにした。
出版社「今後は性描写を抑えめにします」
「奥サマは小学生」は、児童ポルノなどが問題になる中で誹謗・中傷があったとして、作者の松山せいじさんが2010年1月、秋田書店に絶版の申請をしたことをブログで明らかにしている。
とはいえ、猪瀬直樹副知事が取り上げたことに対し、松山さんは、ツイッター上で怒りをぶちまけた。セックスシーンは一切ないのにと批判し、「スケープゴートされた時の為に、ブログやツイッターやmixiで、遺言書でも書いておくべきなのだろうか」と嘆いている。
実際に規制対象になるのは、11年7月1日以降に発売される漫画・アニメだ。しかし、都の青少年課では、「『奥サマは小学生』は、過去に出ているものですので、不健全図書指定にはできませんが、この漫画の表現に似た作品は、規制対象になりうるということです」と明かした。
ネット上では、この作品表現以外に、どんなものが規制されるのか特定しようという動きが出ている。
情報サイトでは、大手出版社から出ている漫画もいくつか挙がっている。そこでは、少女が乳首を相手にこすりつけていたり、下半身をもんだりする様子が生々しく描写されていた。
各出版社では、販売規制を巡って、戦々恐々としているようだ。
ある出版社の漫画雑誌編集者は、「レイプや近親相姦は名指しされていますので、新たな企画や作品づくりでは、それは避けたいと考えています。確かに、18歳以上なら販売できるのですが、売り場でゾーニングされていないので買えるじゃないか、と指摘されると困りますので」と明かす。別の出版社の漫画編集部でも、「うちはソフトH路線なんですが、今後は性描写を抑えめにしようと考えています。いくらでも拡大解釈が可能で、恣意的に運用されそうですからね」と言う。
ただ、条例があいまいだとして、角川書店と同様に、各社とも具体的な対策については決めかねている様子だ。