日立製作所が日本の電機業界の先頭に立って業績の「V字回復」を遂げようとしている。2010年9月中間連結決算では、最終損益が1580億円の黒字(前年同期は1332億円の赤字)となり、上半期として20年ぶりに過去最高を更新。2011年3月期通期見通しも2000億円の最終黒字を見込み、1991年3月期の過去最高(2301億円)に迫る勢いだ。
リーマン・ショックが直撃した2009年3月期には国内製造業として過去最大となる7873億円もの最終赤字を計上した日立。急速な復活劇の主な要因はリストラ効果と新興国市場の伸長で、バランスの良い事業群も株式市場には好感されている。ただ、将来の成長に向けたインフラビジネスの強化などには課題も残す。
時価総額で総合電機大手3社のトップ
日立1兆8524億円、東芝1兆8306億円、三菱電機1兆8079億円。
12月13日終値ベースの総合電機大手3社の時価総額だ。注目されるのは、1年ほど前に日立にダブルスコアをつけて3社のトップを走っていた東芝が団子状態の中の2位となり、日立がトップに躍り出ている点。「V字回復を果たしつつある日立の業績、バランスよく各種の事業を持つビジネスモデルが見直されている」(外資系証券アナリスト)との声が上がっている。
日立の回復を引っ張っているのは、中国など新興国で旺盛な需要を受けた建設機械や自動車部品など。新興国に加え、国内の生産回復の好影響もあり、傘下の日立金属などの電子部品事業も好調だった。日立の得意とする産業界の「黒子」の部分が国内外で復活していると言える。
三好崇司副社長が中間決算の発表の席上、「収益が出る体質になりつつある」と強調したように、工場再編や人員削減に大ナタを振るったリストラ効果も現れている。また今日では韓国、台湾勢が圧倒するに至っている液晶パネル事業からの撤退などの「選択と集中」も着実に業績回復に寄与している。
情報通信や電力などの社会インフラを柱に
選択と集中と言えば2009年、業績どん底の中で断行したTOB(株式の公開買い付け)による、日立マクセルなど上場5子会社の完全子会社化。重複を避け、グループの資源を有効に使うという狙いも功を奏しつつあるようだ。ただ、なお10社を超える上場子会社をさらに本体に「集中」させる考えはないようで、経済メディアへのインタビューで中西宏明社長は「(再編は)一通り終えた」と語っている。
リストラや「選択と集中」を終えた次の問題は成長の糧をどうするかだが、この点は手探りでもある。この辺りが時価総額で東芝を抜いた後、さらに突き抜けられない要因かもしれない。
中西社長は2010年4月の就任以来、成長の糧に関連し「日立を世界有数の(情報通信や電力などの社会インフラを中心とする)『社会イノベーション企業』にする」と繰り返し述べている。「世界の社会イノベーション」を進めることなどにより、2010年9月中間期で44%程度の海外売上高比率を、今後は6割にまで高めていくことも目指す。
これには最近の官民一体となった「インフラ輸出」の波に乗る必要がある。長い目で見る必要がある分野だが今のところ、目立った成果は出ていない。特にアジアのインフラビジネスは米ゼネラル・エレクトリック(GE)など世界の競合相手との競争が激しい。英国で優先交渉権を得ている高速鉄道の車両更新も、英国の緊縮財政のもと、当初より規模が小さくなりそうだ。「社会イノベーション」でどう次の一手を打てるかに市場は注目している。