たばこが大幅に値上げされて2カ月。予想通り、すさまじい駆け込み需要のまとめ買いと、反動の大幅落ち込みを記録、コンビニも「ついで買い」が減ったことなどで売り上げに陰りが出るなど、経済への悪影響を懸念する声が強まっている。一方で、禁煙外来の盛況、禁煙薬や関連グッズが売れるなどのプラスもある。
たばこ税は2010年10月1日から1本当たり3.5円(1箱20本で70円)引き上げられ、価格は1箱100円超上がった。このため、10月の紙巻きたばこ販売実績は、前年同月比69.9%減の61億本と激減(日本たばこ協会まとめ)。
値上げで禁煙した人が喫煙者の12.8%
値上げを前に、大量に買いだめした愛煙家が多かった反動で、増税前の9月の販売本数374億本(前年比88%増)と比べ6分の1以下への急降下だ。
コンビにも直撃を受けた。主要コンビニエンスストア10社の10月の既存店売上高は、前年同月比5.9%減の5903億円と4カ月ぶりに減少。来店客数も4.4%減の10億6760万人と5カ月ぶりのマイナス。大手5社は軒並み落ち込み、売上高に占めるたばこの比率が高いサークルKサンクスが11.1%減ったのをはじめ、ミニストップ10.6%減、ファミリーマート9.9%減、ローソン3.1%減、セブン-イレブン2.1%減。たばこの販売自体の落ち込みに加え、「たばこと一緒に飲み物や菓子などを購入していた人が店に来なくなり、『ついで買い』効果も消えた」(大手)という。
問題は、反動減の影響がいつまで続くか、その後にどれだけ戻るか。
第一生命経済研究所は、たばこ販売が10~12月期に4割落ち込むとみて試算。7~9月期に駆け込み需要などで個人消費が0.3~0.4%押し上げられたが、10~12月期は反動減で消費が0.6~0.7%押し下げられる可能性があるとしている。マイナスの方が2倍近くになるというわけで、GDPにすると数千億円のマイナス。
また、伊藤忠商事調査部も、同様に7~9月期の消費を0.3%押し上げ、10~12月期は0.6%押し下げとみている。伊藤忠は調査レポートで、過去の値上げでは「反動減は1四半期で収束し、次の四半期にはリバウンドが生じている」として、2011年1~3月期は0.1~0.2%の消費押上があっておかしくないとしながらも、値上げ幅が過去の10~30円に比べ、今回は大幅値上げであることから、「リバウンドは小幅に留まる可能性もある」と指摘している。
一方、禁煙関係は盛況だ。東京都内のある医大病院の禁煙外来の受診者は4月以降、前年比2割増ペース。飲み薬で禁煙する3カ月の通院コースは保険適用が約2万5000円程度で、1日に換算すると300円未満と、たばこより安い。
禁煙意識の高まりはアンケートでも明白。調査会社「クロス・マーケティング」が値上げ後に20~69歳の男女1000人の聞いたところ、値上げで禁煙した人が喫煙者の12.8%に上り、吸い続けていても「本数を減らし、以前と同じたばこ代ですむようにした」と答えた人が半数近かった。ただし、調査会社「マクロミル」の調査(500サンプル)で、禁煙から1カ月、「1本も吸っていない」62%に対し、「禁煙をあきらめた」が20%おり、禁煙の難しさを改めて裏づけている。
禁煙外来の自己負担を会社と健保組合肩代わり
スーパーやドラッグストアなどでは「禁煙支援コーナー」を設けている店も目立ち、関連商品の売り上げが「6月ごろから前年比3~6割伸びている」(大手ドラッグチェーン)といった威勢のいい声も。飲むタイプの禁煙補助薬、貼るタイプのニコチンパッチ、さらに禁煙パイプやニコチンガムなども前年の2,3倍売れているメーカーはざら。製薬大手ファイザーの「チャンピックス錠」など品薄状態になっている薬品も一部に出ている。
コンビニでは10月以降、ガムの売り上げが前年比1割前後伸びているという声が多く
、「禁煙している人が、たばこの代替品として買っているようだ」(大手)という。
こうした流れに合わせ、多くの企業が社員の禁煙支援に力を入れる。ネスレ日本などは禁煙外来の自己負担額を会社と健保組合が肩代わり。このほか、禁煙成功者に祝い金や、旅行や娯楽など福利厚生サービスに使える「ポイント」を支給する企業、採用時点で事実上、禁煙を条件にしたり、新入社員研修で禁煙指導を徹底したりする企業もあるという。
自治体も取り組みを強化。東京都練馬区は、区民が区内の薬局で禁煙補助薬を購入した場合に2週間分(6000円相当)を補助する全国初の制度を6月1日にスタートさせたところ、3週間足らずで定員の100人に達して締め切る盛況。このほか、神奈川県が「卒煙塾」を開設、ショッピングセンターでの「禁煙相談」などに取り組む自治体も増えている。