「捜査中なのでお答えできません」。歌舞伎俳優の市川海老蔵さん(33)が謝罪会見中に10回ほどもこの文句を連発して、不満の声が出ている。言い逃れするためではないか、という厳しい見方もあるが…。
2010年12月7日夜の謝罪会見で、海老蔵さんは、17回も頭を下げたと報じられ、話題になった。
「都合の悪いことを隠しているとみられる」
一方、それにも劣らず連発していたのが、回答を拒否する理由として「捜査中」という決めぜりふだ。
逮捕状が出た中南米系ハーフの男性(26)による暴行現場のことや、男性ら不良グループと飲んだ経緯、その先輩格に当たる元暴走族リーダー男性(29)の名前を言いたくないと警察に言っていた理由、男性グループの人数…。こうしたことすべてに、この文句を錦の御旗のように繰り出していたのだ。
会見には、弁護士も同席し、警察から捜査に差し支えるので事件の詳細は言わないようにクギを刺されているとも明かしていた。
これに対し、マスコミ報道では、海老蔵さん側が、都合の悪いことを言い逃れするのに使っているとの批判が出ている。事件の核心に触れなかったため疑問が解けず、「反省」をアピールするだけの会見だったとの指摘もあった。
退院の日にいきなり会見したことについても、海老蔵さんに不利な報道をけん制する狙いがあるのではないか、すでに示談が進んでいてもう真相を明かす必要がなくなったからでは、といううがった見方もあるようだ。
検事出身の落合洋司弁護士は、自らのブログで8日、質問から逃げている印象を与えてしまったとして、「成功した会見とは言えなかった」と指摘した。
落合弁護士は、取材に対し、次のように指摘する。
「記者会見では、当然質問が出るのですから、ある程度それに答えないといけません。受け答えがちぐはぐになりますし、国民も見ていて、都合の悪いことを隠しているとネガティブに考えがちになりますね。それに、伝統芸人としての説明責任というものが、要請として当然あると思います」
「裁判ではっきりさせればいい」
市川海老蔵さんが会見で答えるべきこととして、落合洋司弁護士は、基本的な事実関係を挙げる。
「トラブルになった原因をどう考えるかや、自分がどんな暴行を受けたのか、自らが手を出したのかどうか、といった点です。報道を通じて国民が知っていることは、少なくともきちんと説明するべきでしょう。弁護士がおられるので、先に海老蔵さんから聞き取りをして、ここまで言えるということを決めておくべきでした」
落合弁護士はブログでは、1つの方法として、弁護士が事実関係を先に説明し、その後にそれ以外のことについて本人が答える工夫の余地があったとしている。
もっとも、事件について深く立ち入って細かく説明することは、捜査に支障が出るとみており、バランスを考えるべきだったと言う。
一方、捜査への支障について、もっと重くみる司法関係者もいる。
同じ検事出身の大澤孝征弁護士は、取材に対して、海老蔵さんが「捜査中」を理由にしたことに理解を示し、「あれでもしゃべりすぎだ」という。
「被害者の言い分が知られると、それに合わせて加害者が弁解を考えて、事件の真相が分からなくなってしまいます。捜査官は、いわゆる『秘密の暴露』をするためのキーワードを持っており、それが減ってしまうということです。証拠中心の捜査だからこそ、証拠化されていない部分を伏せておいて聞くことが大切なわけです」
そのうえで、事件の核心については、「裁判ではっきりさせればいい」と指摘する。
だからと言って、海老蔵さんが会見したことは無意味とは言えないという。
「被害者なのに、退院後もマスコミが殺到して、さらに被害を受けることが考えられます。そんなメディアスクラムを防止するための手段としては、正しい選択だったと思います」