酒を飲んでいた際に殴られ、全治2か月の怪我を負った歌舞伎役者の市川海老蔵さんが2010年12月7日、無期限の謹慎を発表した。過去に歌舞伎役者が不祥事を起こして2か月の謹慎になったことはあるが、「無期限」は異例。歌舞伎に詳しい専門家は「最低でも半年は謹慎」とみている。
海老蔵さんは11月25日に殴られ、都内の病院に入院。29日に顔の整復手術を受け、12月7日に退院した。同日夜に都内ホテルで記者会見をし、松竹・迫本淳一社長から、無期限での謹慎が発表された。
5月の公演が1つのポイント?
11年1月に予定されていた「初春花形歌舞伎」(東京・ル テアトル銀座)は中止、2月の「二月大歌舞伎」(名古屋・御園座)も休演となった。迫本社長は、事件詳細は捜査中としながらも、処分理由として、海老蔵さんが制作記者発表会見をキャンセルしたにも関わらず深夜に外出して飲酒、12月の京都・南座の顔見世興行に穴を空けたことを挙げた。また、事件の原因に本人の態度もあると思われることなどを説明した。
これに対し、海老蔵さんは「(自分の)あさはかな行動に対して当然だと思います」。父・団十郎さんからも「当然だ」と言われたという。謹慎中の過ごし方については、「歌舞伎が自分一人ではできないことをもっと認識し、今までだったら気付かないようなことでも感謝できるような人間になりたい」と語っていた。
「無期限」謹慎というのはかなり珍しい。過去に歌舞伎役者が起こした不祥事としては、05年、中村七之助さんがタクシー料金を巡って警官を殴り、逮捕された事件がある。そのときは2か月の謹慎で、歌舞伎界ではそれまでで最も重い処分だったという。今回は2月の公演の休演も発表されているので、最低でも3か月程度仕事はできないようだ。
迫本社長は「市川宗家の市川海老蔵としての自覚と猛省を促したい」と話しており、海老蔵さんに相当なお灸を据える考えのようだが、無期限というのは一体いつまでなのか。
2010年12月8日昼に放送されたTBSの情報番組「ひるおび!」で、演劇評論家の上村以和於さんは「無期限というのはどうとでもとれる。具体的な数字は言いにくかったでは」と推測。復帰のポイントの1つとして、半年後、11年5月に行われる団十郎さんメインの公演「団菊祭五月大歌舞伎」が挙げられると語った。事件の処理を巡って、海老蔵さんに不利な証言が出てくれば、延びる可能性もあるともしていた。
普通だったら役者生命はなし
芸能評論家の肥留間正明さんは
「半年と思ったら無期限だった。恐らく松竹と歌舞伎界の幹部が決めたのだと思います。『無期限』となったのはスポンサーやお客に謝り、歌舞伎の先輩にも納得して貰うため。それだけ大きな事件を起こしているということです」
と語る。酒に暴力沙汰、自らの言動にも不備があったと言うことで、歌舞伎界のイメージダウンは計り知れない。金銭的にも公演が中止となっただけで、数千万から数億円単位の損失となる。テレビCMも3社が放映を中止し、今後予定されていた海老蔵さんを使ったプロモーション計画が全てダメになってしまった。
「CM契約料は、タレントのイメージを守るため『危ないところで遊ばないでください、車を運転しないでタクシーを使ってください』という意味も込めて数千万円とかの高額になっています。広告代理店も今後10年間は、怖くて海老蔵さんを使えないでしょう。そもそも、役者が舞台に穴を空けるというのは下っ端だったらクビ。しかも会見をさぼってますから、普通だったら役者生命はありませんよ。海老蔵さんだからこの程度で済んでいる。最低でも半年は謹慎でしょうが、人間性も問われる人間国宝はこれでなくなったでしょうね」
と話している。