障害をネタにして視聴者を笑わせる――。こんなタブーとも思えるようなバラエティ番組をNHKが手がけ、反響を呼んでいる。
障害者がお笑いを演じる教育テレビの番組名は、「笑っていいかも!?」。そのネーミングもぶっ飛んでいるが、番組はしょっぱなから視聴者の度肝を抜く。
ゲストから繰り返された自問自答
自らも脳性マヒを患っている司会の自立生活センター職員、玉木幸則さんが、たどたどしい声で番組の趣旨を説明すると、同じ司会でラジオDJの山本シュウさんがこう突っ込むのだ。
「字幕出てますかあ~?字幕」
番組は、教育テレビ番組「きらっといきる」の中で2010年4月から月1回バリアフリー・バラエティとして始めた「バリバラ」の特番だ。12月4日夜に2時間かけて放送され、番組内では、障害者のお笑い日本一を決める「SHOW-1グランプリ」などが行われた。
このグランプリには、41組の応募があったといい、予選を通過した7組のコントを紹介。その中で、初代グランプリに輝いた「脳性マヒブラザーズ」の2人のコントは、ネット上でもその内容が話題になるほどだった。
患者役のDAIGOさんが「風邪だと思う」と明かすと、医者に扮する車いすの周佐則雄さんが症状を聞く。DAIGOさんが「手が動かない。体も震える。うまくしゃべれない」と言って早口言葉を口ごもると、周佐さんは、あっけらかんとこう言うのだ。
「あなた、風邪じゃなくて脳性マヒですね!」
コントでは、「風邪で震える!」「脳性マヒでしょ!」といった押し問答を続け、最後にどんでん返しで締めくくっている。
障害をネタにしているだけに、番組内では、「果たして笑っていいのか?」との自問自答がゲストらから繰り返された。しかし、その1人のカンニング竹山さんは、爆笑してしまったことを認めたうえで、「お前ら汚ねえよ! どれだけ武器生かしてんだよ!」とその威力に舌を巻いていた。
NHKにメール260件、9割が応援メッセージ
タブーとも思えるようなコントだけに、戸惑いも出ているようだ。
NHKの番組内でも、健常・障害者ともに内容に様々な反応があったことを紹介している。「本人さえ納得してやりたいことをしてれば、別に何とも思わない」という賛成論から、「障害を笑いにしてしまうと、その障害の人、みんなを笑ってしまうことになる」といった反対論までだ。
ネット上でも同様で、ブロガーの会社員男性(32)は、はてなダイアリー「てれびのスキマ」で、番組内容を詳細に紹介しながら、このことに触れた。番組について、「濃密で凄い2時間」「抜群に面白い」としたうえで、「ハゲてる人だって、それをネタに笑ってほしい人もいれば、触れてほしくない人もいる。障害者だってそれは同じ」と疑問も指摘している。
2ちゃんねるでも話題になっており、「もうだめだ面白いw」「やべぇよ・・・やべぇよって言いながら見てた」「どう反応すりゃいいんだこれ」といった複雑な反応がまとめサイトで紹介されている。
一方、障害者として「障害ネタで笑えることが究極のバリアフリー」と明かしていたスポーツライターの乙武洋匡さん(34)は、ツイッターで質問され、「僕は見ていないので何とも言えないけど、みなさんのツイートを見てるかぎりでは楽しい番組みたいですね(o^∀^o)」と答えていた。
NHK広報局によると、特番放送後に、約260件ものメールが届き、うち約250件が応援メッセージだったという。「今まで健常者がタブー視してきたものを障害者の人から破ってくれるとは思ってもいなかった」「『障害者のすることは絶対笑ってはいけない』という世間の常識自体が差別的なのではないか」というものだ。否定的な意見は、7件だけだった。
広報局では、こうした意見をもとに、「今後も、番組を通して、障害者と健常者の間のバリアフリーを達成することをめざします」としている。