ソニーは2010年12月10日に電子書籍専用端末「リーダー」の日本版を発売する。2004年に「リブリエ」と名付けた端末を投入しながらも3年ほどで撤退して以来の再参入。
今回は米アップルの「iPad」などが市場を賑わせる中、米欧での成功体験を引っ提げ、満を持しての「真打ち」登場だ。ただ、ここにきて国内ではハード、配信サービスともに乱立気味で、限られた読者を奪い合う消耗戦に陥る可能性もある。
ソニー端末はパソコン経由で「書物」をダウンロード
「リーダー」はインターネットにつなげてパソコンのように使えるiPadや、シャープが12月に発売する「ガラパゴス」などの「多機能型」と違い、米アマゾンの「キンドル」とともに「電子書籍専用端末」と呼ばれる。
とりわけ日本版の「リーダー」はキンドルに備わっている通信機能すらなく、パソコン経由で「書物」をダウンロードするスタイル。当然、本体は軽く、価格も安い「身軽」な機器と言える。「文庫本と同じサイズ」が売り物の5型は155グラムで2万円。iPadの680グラム、4万8800円に比べれば差は歴然としている。それでもリーダーには1400冊を保存できるというから「本棚をポケットに入れて持ち歩く」というのも大げさな宣伝文句ではない。
2010年は電子書籍元年と言われるだけあって、国内でも数少ない成長分野に乗り遅れまいと市場参入が相次ぐ。韓国サムスン電子が、NTTドコモから11月26日に「ギャラクシーTab」を発売したのに続き、シャープはガラパゴスを「リーダー」と同じ12月10日に発売し、NECも「スマーティア」を12月6日に発売。富士通も2011年には投入したい考え。
東芝は既に電子書籍を読めるミニノートPCは発売している。かつてソニーとともに発売・撤退した経験を持つパナソニックは今のところ表立ってアナウンスしていないが、多機能型を軸に検討している模様だ。
飛躍的には増えないという見方も有力
ただ、メーカー側の熱気とは裏腹に、市場には変調も見られる。例えば肝心のiPad。アップルは国内の販売台数を公表していないが、どうやら爆発的に売れ続けているわけではないようだ。状況証拠として、発売当初こそ予約が殺到し納品待ちの時期もあったが、夏場には納品待ちが解消。当初はブランド価値を高めるために絞り込まれていた取扱店も徐々に拡大しており、「アップルが販売をテコ入れしているのではないか」(ある量販店)と受け止められている。
iPad人気がもう一つ爆発していない背景にはソフト不足もありそうだ。日本の電子書籍市場自体は、携帯電話向け漫画配信を中心に2009年度で630億円(矢野経済研究所調べ)あり、iPad以前から既にそこそこの市場だった。だが、端末の発売や配信サービス開始が相次ぐ10年度でも前年度比6.3%増の670億円程度の見込みで、飛躍的には増えないと同研究所は見ている。
背景には一般の新刊の電子書籍が米国のようにどんどん出されるわけではなく、「試験的に出してみた」程度でとどまっているという事情もある。誰も大きな声では言わないが、作家→出版社→印刷会社→取り次ぎ→書店という日本の強固な絆を崩してまで電子書籍に移行しようというインセンティブに乏しいためだ。そうした現状にどこまでインパクトを与えるか、「リーダー」をはじめ国内で発売が相次ぐ電子書籍対応端末の動向が注目される。