増資発表前の空売りについてのインサイダー取引疑惑が注目を集めている。きっかけは、東京電力や日本板硝子、国際石油開発帝石などの増資。発表直前、空売りによる大口取引が続発し、株価が急落する不自然な値動きが続き、英紙でも報道されるなど国際的にも注目される騒ぎに発展している。
東京証券取引所はたまらず、インサイダー取引対策に乗り出す方針を表明した。東証は規制強化でイメージアップを図る狙いだが、実効ある規制は困難との見方も出ている。
東電、日本板硝子、国際石油開発帝石で不自然な動き
東証の斉藤惇社長は2010年11月24日の定例会見で、東証の国際競争力向上策の一環として、インサイダー取引防止のため、空売り規制の検討に着手したことを明らかにした。
増資情報で儲けるメカニズムは次の通りだ。大規模な増資を実施すると、発行株数が増え、1株当たりの価値が希薄化するため、発表後に株価が下落することが多い。発表前に増資情報を知れば、株価が高いうちに空売りをかけ、発表後に値下がりしたところで買い戻し、利ざやをかせぐことができる。また、空売りで株価を下げれば、新株の売り出し価格を安値に誘導でき、新株を安く引き受けて、その後の値上がりで利益を得ることも有り得る。
実際、東京電力のケースでは、9月29日の取引が終了した午後4時半ごろに約5500億円の大型増資を発表したが、その日の取引では大規模な空売りが相次ぎ、出来高が通常の数倍に膨らみ、株価は前日終値に比べて7.8%も下落した。日本板硝子、国際石油開発帝石でも同様の不自然な動きがあり、インサイダー取引の疑いが浮上している。
東証や証券取引等監視委員会はすでに調査を開始。情報漏えいの原因とにらんでいるのは、増資を引き受ける証券会社が新株の発行価格などを決めるため、機関投資家を対象に行う「事前ヒアリング」だ。
「海外経由で情報やうわさが流れている」
「いくらくらいの価格なら買うか、市場の動向を探り、新株発行価格を決める参考にする」(証券会社)というもので、国内では事実上、禁止されているが、海外投資家に対しては行われている可能性があるという。このため、「海外経由で情報やうわさが流れている」(市場関係者)との見方が強い。その場合、市場に流れたうわさに基づき取引をしているとすれば、インサイダーに該当する「職務や地位によって知り得た未公開の重要な情報に基づく取引」と認定して摘発するのは難しい。
東証は、発行価格が決定するまで5営業日の間に空売りを行った投資家の新株割り当てを禁止している米国の制度を参考に、金融庁と規制内容を検討している。ただ、一定の効果は期待できるものの、増資発表前の空売りには規制がかからず、疑惑を払しょくできるかは未知数だ。
アジア市場が成長する中、東証の「空洞化」に歯止めをかけるには、透明かつ公正な取引が保たれていることが大前提となる。だが、「対応を強化しても、インサイダーにつながる証拠はなかなか出てこない」(市場関係者)のが実情。過剰な規制は逆に取引低迷を招く危険もあり、東証は難しい舵取りを求められる。