国際的に活動する銀行に対する新しい自己資本比率規制の検討が国際的に進められている。中でも重要なのが金融機関への「上乗せ規制」だ。
自己資本比率8%以上という本来の規制に加え、「資本の質」が高いとされる普通株など「狭義の中核的自己資本」の比率を実質的に7%以上に引き上げる新規制が既に決まったほか、「金融システム上重要な金融機関(SIFIs)」には、さらに自己資本の上乗せを求めることになった。具体的な対象金融機関をどの範囲とするかは2011年に決まる見込みだが、日本のメガバンクは対応には苦慮しそうだ。
3メガバンクのほか野村証券も対象に入る可能性
ソウルで2010年11月中旬に開かれた主要20カ国・地域首脳会議(G20サミット)は、主要国の銀行監督当局でつくるバーゼル銀行監督委員会がまとめた国際的に活動する銀行に対する新しい自己資本比率規制「バーゼル3」を承認した。
国内3メガバンクはそれぞれ2回の大型増資を実施済みで、「(さらなる)増資なしで新規制への対応は十分可能」(塚本隆史みずほフィナンシャルグループ社長)などと余裕を見せていた。
そこに新たに浮上したのが、世界の金融当局や国際機関などで構成する金融安定理事会(FSB)が検討している「大き過ぎてつぶせない」とされるSIFIsに対する追加規制だ。
G20の首脳宣言は、より高い健全性をSIFIsに求めた。FSBは、SIFIsを、さらに「国際業務の大きい金融機関(G-SIFIs)」とそれ以外に分類することを提言。来年初めまでに資産の規模や国際業務の割合などを基にG-SIFIsの定義を決め、2011年末までに規制内容をまとめる方針だ。
今のところ、業務の中身などにより「商業銀行中心型」など4~6類型に分けて上乗せ幅などを検討すると見られ、対象は世界で「20金融機関ぐらいだろう」(マリオ・ドラギFSB議長)とされ、日本勢では3メガバンクのほか野村証券も入る可能性があるとされる。
国際的な一流プレーヤーと認められる条件
この規制を巡って、各国の主張が対立している。英米は、「一律に自己資本上乗せ」を主張。一方、日本や独仏は「金融機関の業態や地域性によって重要性は異なり、各国の裁量に任せるべきだ」と一律規制に反対している。
新たな規制は邦銀には「踏み絵を踏ませるもの」(金融当局)。既製の自己資本規制への対応は、現在の普通株に、今後の利益剰余金を積み上げていくもので、「G-SIFIsになれば上乗せ規制に対応するため、新たな増資が必要になるかもしれない」(メガバンク)との声が聞かれる。
一方、G-SIFIsにならないと「国際的な一流プレーヤーと認められず、業務に大きなマイナスになるかもしれない」(金融当局筋)。例えば、7月に中国農業銀行が上海と香港株式市場に上場して200億ドルもの資金を調達したが、新規制が実施された暁には「主幹事はG-SIFIsに限る」とされる可能性がささやかれる。
三井住友フィナンシャルグループは「利益のうち2割を占める国際部門2年半のうちに3割にしたい」(11月12日の会見で北山禎介社長)とするなど、国内不振の活路を海外に求める邦銀が、戦略の見直しを迫られる事態も考えられる。