牛丼チェーンの「すき家」や「松屋」に対抗して吉野家がくり出した低価格の「牛鍋丼」が好調だ。発売後約1か月で1000万食を突破し、味も「なかなかおいしい」と評判だ。ただ、客数は増えたものの、単価が下がり、巻き返しに成功したとはいえない結果だ。
2009年12月に、「すき家」を展開するゼンショーが牛丼・並盛「280円」を打ち出し、牛丼戦争が勃発して間もなく1年になろうとしている。
吉野家の中間決算は赤字だった
「松屋」を運営する松屋フーズは「すき家」に対抗して320円に引き下げたが、吉野家はいまでも380円に据え置いたままだ。
吉野家ホールディングス(HD)の中間決算(2010年3‐8月期連結)は、売上高が854億円で前年同期に比べて8.0%減った。このうち、牛丼関連事業の売上高は既存店ベースで497億円、同5.2%減。店舗展開も36か店を出店した一方で43の不振店を閉鎖するなど、「本業」での苦戦がうかがえる。中間損益(連結)も9億円の赤字だった。
一方、ゼンショーの中間決算(10年4‐9月期連結)は、売上高は1845億円で、前年同期に比べて13.7%増。最終利益は28.0%減の20億円だった。
また、松屋フーズの売上高は10.6%増の788億円、中間利益は7億円と前年同期に比べて2倍超も伸ばした。
すき家や松屋が牛丼の安売りによって集客力を高め、売上げを伸ばしたのに対して、客足が伸び悩んだ吉野家は「安売り競争」では敗者となった形だ。「外食産業そのものの調子が振るわない中で、他社による価格の引き下げは大きな影響を受けたことは確かです」(吉野家HD)という。
もっとも、吉野家HDの中間決算には9月に発売した「牛鍋丼」の売上げは含まれていない。牛鍋丼は「絶好調」で10月4日に早くも1000万食を突破した。その勢いで、10月から投入するはずだった「牛キムチクッパ丼」を1か月ずらして、11月1日に販売を開始したほどだ。
280円の低価格メニューは、お客の低価格ニーズに対応した商品。すき家や松屋の牛丼の通常価格と同じ水準で、このメニューでお客を奪回していく作戦だ。
牛丼にこだわり、メニュー増やせないのが弱み?
低価格の「牛鍋丼」で巻き返しを図ろうとする吉野家だが、その狙いは成功したとはいえない。実際に、2010年10月の売上げ(既存店ベース)は前年同月比3.8%減だった。客数は同10.6%増えたものの、客単価は13.0%減少した。吉野家は「昨年はこの時期にキャンペーンを展開していて客単価も上がっていました。その反動があります」と説明するが、結果的に牛鍋丼の「効果」も限定的なようだ。
安売り競争が起こって間もなく1年。いまやキャンペーン価格だと「250円」もある牛丼。ふだんでも、すき家が並盛280円、松屋は320円と、380円の吉野家よりも安い。それもあって、吉野家は客足を両社に奪われていた。
外食産業を担当するアナリストは吉野家について、「牛丼にこだわり、メニューを増やせないでいるのが弱みだ」と指摘する。ゼンショーも松屋も、「安い牛丼」で集客力を高めて、サイドメニューやトッピング、他のメニューを食べてもらうことで客単価を上げる作戦で売上げを伸ばしてきた。
牛丼チェーンはこれからが正念場なのに、「牛丼一筋」で勝負してきた吉野家はここでの「後手」がなお大きく響くとみられている。
たとえば、松屋はテレビCMで「秋のハンバーグ祭り」と銘打って「牛丼以外」をアピール。すき家もネギやキムチ、チーズなどの「変りダネ牛丼」の品揃えを豊富にしているほか、並盛や大盛以外にもミニ、プチ、特盛りにメガなどの「盛り」のバリエーションを増やすことで、これまでのビジネスマンや男子学生といったコア層に加えて、女性やファミリー層の獲得に意欲的だ。
吉野家HDは「特色を出してやっていきたい」と話しているが、どこまで巻き返せるか。牛丼戦争はまだ続く。