商社の業界団体である「日本貿易会」が、「学生に勉学に集中させるため、新卒採用活動の時期を従来より4カ月程度遅らせよう」という趣旨の提言を2010年11月17日にまとめたことが関係者に注目されている。
貿易会は提言を日本経団連に提出、産業界全体に議論を呼び起こしたい考えだが、企業に積極的な賛成は少ない。世界で戦える人材を育成しようという商社の思いが、この先宙に浮く可能性もある。
採用試験を4年生の8月以降に繰り下げ
「就職活動の長期化で日本人学生の海外留学が激減している。海外で仕事をしていると日本は異常に見える」。貿易会の槍田松瑩会長(三井物産会長)は11月17日の定例会見で「国力低下」への懸念を口にして、提言をまとめた理由を説明した。普段はライバルとしてしのぎを削る大手商社同士が、学生の「国際力」低下を憂い、現状を変えようという考えで一致したというわけだ。
就職活動の早期化、長期化だけが原因ではないだろうが、留学生は減っているのは事実だ。特に落ち込んでいるのが米国で、最も多かった1997年の約4万7000人から、2009年には約2万5000人と半数近くに減った。アジアへは増えているので全体ではピークから1~2割程度の減少にとどまるようだが、商社ならずとも少々心配な数字。2010年春には米ハーバード大学長の「日本人留学生の存在感が中国や韓国に比べて薄い」との発言も報じられた。
商社が持ち出した「4カ月繰り下げ」スケジュールは、以下のような形だ。
現在は3年生の10月ごろに会社説明会などの広報活動が始まり、内定の出る採用試験は4年の4月ごろから。採用を絞り込む傾向は続いており、内定を得られない学生は活動を続けざるを得ず、活動長期化が社会問題になっている。これに対し商社案は、広報活動を4年生の2~3月、採用試験を4年生の8月以降に繰り下げる。2012年春入社の活動は既に始まっているので、今の2年生が就職する2013年春入社から変える、という。
早期化是正は2011年3月までに結論を出す
早期化が進んだのは1997年に就職協定が廃止され、経団連の「倫理憲章」が採用指針になってから。憲章は協定のようには企業説明会の開始時期などをしばらないため、次第に早まったとされる。貿易会の提言はこの倫理憲章で「日程の後ろ倒しの明文化」を求める。高木義明文部科学相が10月に経団連などに早期化是正を申し入れるなど、政府も働きかけを始めている。
経団連も動き出してはいる。倫理憲章は毎年見直しをして、例年9月ごろに新しいものを発表する。例年なら春から夏に行う見直し作業を、2011年秋発表分は半年前倒しして2010年10月に始めた。早期化是正も検討課題にし、2011年3月までに結論を出す方針。商社も産業界全体が動かなければ自分たちだけを遅らせる考えはないといい、経団連の検討結果が注目される。
ただ、企業側の反応は鈍い。日本自動車工業会の志賀俊之会長は会見で質問を受け、回答を事務方に振ってしまったし、銀行、鉄鋼など主だった業界団体も様子見の構え。経団連の米倉弘昌会長も「難しい」と周囲に漏らす。商社業界が本当に変えたいなら「自分たちだけでもやる」と宣言するくらいの勢いが必要かもしれない。