新卒大学生の就職内定率が、とうとう「就職氷河期」を下回ってしまった。一向に改善しない雇用状況に、政府はハローワークを拡充、新卒学生の支援窓口をつくって活用を促す。
ところが、肝心の就活生たちがハローワークに行かないというのだ。背景には、自分たちとは関係のない施設との思い込みや、頑ななまでに「情報サイト」に頼ろうとする姿勢も影響していると見られる。
新卒者に特化した就職窓口を開設
「57.6%」。2010年10月現在における、11年春卒業予定の大学生の就職内定率の数字だ。文部科学省と厚生労働省が11月16日に発表、1996年の調査開始以降最低の水準で、いわゆる就職氷河期を下回る落ち込みとなってしまった。
これを受けて、細川律夫厚生労働相は同日の記者会見で、就職活動に励む新卒者に「ぜひハローワークを活用してほしい」と語った。実は10年9月から、ハローワークに新卒者向けの「特設」窓口を全国に開設し始めたのだ。「新卒応援ハローワーク」と呼ばれる施設で、全国では55か所、東京都内にも港区と八王子市の2か所に設置されている。
東京都の場合、ハローワークによっては34歳以下を対象にした職業相談所を設けている。東京労働局職業安定部に聞くと、新卒応援ハローワークは「34歳以下」の施設とは別に、新卒者と、大卒3年以内の既卒者に絞って支援するようだ。個別の就職相談に応じるだけでなく、求職者と企業とのマッチングを実施、さらに大学と連携して就職面接会なども行うという。
スタートして間もないこともあり、学生がどこまで認知しているかは疑問だ。「就活のバカヤロー」などの著書があり、就職問題に詳しいジャーナリストの石渡嶺司氏は、「大学の就職相談窓口以外のチャネルが増えるのはよいが、学生たちに知れ渡っていないのではないか」と見る。ハローワークが大学との連携を強め、大学以外の相談窓口を利用するメリットを学生に訴えかけないと、せっかくの施設もどう使ったらいいのか不明なままだというのだ。
就職情報サイトで仕事を探すのが今では主流
そもそも新卒者にとって、ハローワークを就職活動で利用しようと考える人は少ないと石渡氏。この点は、東京労働局職業安定部も「ハローワークは転職者や年齢の高い人向け、というイメージがあるかもしれません」と認める。だからこそ、新卒応援ハローワークは有益な情報を得られる利用価値の高い施設だとアピールしたいところだ。
だが問題なのは、新卒者に限らず、若年層に「ハローワークに行く」という発想が薄いようなのだ。有料の就職情報サイトで仕事を探す手段が今では主流で、石渡氏によると「ハローワークに行く『文化』がない」という。最近話を聞いた就活中の若者に対して、石渡氏がハローワークを勧めてみたところ「私が行ってもいいんですか」と逆に問われたそうだ。それだけ、若い世代にとって遠い存在になっていると思われる。
数十社回っても内定が出ない状態が続くと焦りはつのり、結果が伴わないことで心身ともに疲れ果ててしまう。「そうなると『ハローワークを利用しよう』という考えすら及ばなくなって、頑ななまでに就職情報サイトに固執するケースが見られます」と石渡氏。利用すべきところを利用せず「勝手に諦めてしまっている」悲劇に陥るというのだ。
「望みどおりの求人が見つかるとは限らないが、ハローワークを活用する意義はある」と石渡氏は話すが、ネットを見ると、最近ではハローワークを訪れる人そのものが減っているという書き込みも見られた。「若い人たちにも浸透してきて、実感として利用度は増している」と東京労働局職業安定部では説明するが、ハローワークを知らない世代や「就活疲れ」の人たちが増えると、せっかくつくった「新卒向け窓口」にも閑古鳥が鳴く恐れもある。