韓国での20か国・地域首脳会議(G20)終了後、ドル円相場が円安に振れている。2010年11月19日の東京外国為替市場は1ドル83円台半ばで推移。月初には一時80円を割ろうかという水準まで円高ドル安が進んでヒヤヒヤしていた国内の輸出企業も、ひと息ついていることだろう。
その一方で欧州の財政不安が再燃。ユーロ安が進展している。そうした状況がドル高を促す材料になっていることもあって、これまでの円高ドル安基調に「転機の兆し」と見る向きもある。
米量的緩和は「ドル安誘導」中国やドイツが批判
G20では、米連邦準備理事会(FRB)が行った量的緩和政策に、中国やドイツが「ドル安誘導策」と批判したことがあり、米国の追加緩和策の発動観測が後退した。それによって、米国の長期金利が上昇してドルが買われやすくなったので円高ドル安に歯止めがかかってきた。
11月19日の東京外国為替市場は1ドル83円台半ば。10月29日には1ドル80円37銭まで上昇したが、「3円安」で落ち着いている。
一方、米国の追加緩和が後退したことで新興国への資金流入が鈍ってきた。韓国中央銀行が4か月ぶりに利上げに踏み切るなど、新興国も金融を引き締めやすくなった。「新興国の利上げは増える」(第一生命経済研究所の主席エコノミスト・嶌峰義清氏)とみられ、こうした動きもドル投資にはプラスに働く。
こうしたことから、今春以降続いてきた「円高」に一服感が広がってきたようだ。
対ユーロ1円の上昇で、ソニー70億円の損失
しかし、第一生命経済研究所の嶌峰義清氏は、「転機」ではないという。「本質的には米経済の弱さにFRBが対応した結果としてのドル安でしょう。転機とか、潮目が変わったというような、基調の大きな変化ではないですね」と話す。
同氏は、円高水準は「相当長いあいだ続く」とみている。「一時的に5~10円程度円安に向かう局面はあり得ることですが、年末にかけては1ドル80~85円のレンジをさまよう展開を想定しています」という。
FRBの強力な量的緩和策で、米経済が失速するような事態は想定しにくくなっていることは確かなようで、1ドル80円を割るようなリスクは一時に比べると小さくなったようだ。
また、ドル円相場が円安に振れている要因の、もう一つは欧州危機の再燃にある。アイルランドやポルトガルなど財政危機が報じられるなかで、ユーロ安が進展。それにより、ユーロから円や米ドルへの資金流入が起こっている。
11月19日のユーロ円は114円00銭~05銭で推移。10月上旬と比べると1円程度の円高ユーロ安。また、ユーロドルは10月中旬に1ユーロ1.39~1.42ドルだったものが、同日は1.36ドル近辺とほぼ横ばいで推移している。
ドルと同様に、「円高ユーロ安」も欧州向けの輸出が多い自動車や家電機器メーカーなどは神経を尖らせている。たとえば、ソニーは1ドルにつき1円円高になると年間で約20億円の減益になる。それがユーロの場合は70億円の減益というから、円高ユーロ安のほうが経営への影響がより深刻なのだ。