政府の家電エコポイントで、購入時にもらえる点数が2010年12月からほぼ半減することになり、各地の家電量販店の薄型テレビ売り場は駆け込み需要でにぎわっている。調査会社BCNによると、10月の薄型テレビの販売台数は前年同月比3.2倍。さらに勢いを増す11月は4.6倍に達すると予測する。
ただ、家電メーカーにとって業績回復の下支えになるかと思いきや、さにあらず。価格下落などにより、ソニーは2011年3月期のテレビ事業の黒字化を早々と断念する事態となっている。
ソニーは年間で収支トントンに届かない
エコカー補助金がリーマン・ショック後に落ち込んだ国内の新車販売を底上げしたのと同様、2009年5月に始まった家電エコポイントは国内の薄型テレビの売り上げを伸ばすのに一役買った。BCNによれば、前年同月比50%増程度のペースで増え続け、10年4月の対象商品絞り込みを控えた3月には2.5倍に達した。10月の3.2倍は、この3月をも大きく上回るもので「エコポイントバブル」の勢いを示す。最近の量販店の店頭では2台、3台とまとめ買いするケースも珍しくなく、一部の人気商品は既に品不足になっているようだ。
それにもかかわらず、テレビメーカー各社の表情はさえない。ソニーの加藤優最高財務責任者(CFO)は、10月29日の中間決算会見で「7~9月期のテレビ事業は160億円の赤字」と明らかにしたうえ、「(11年3月期の)年間の見込みでブレークイーブン(収支トントン)に届かない」と述べ、前年度から続く赤字を脱却できないとの見通しを示した。コスト削減努力を上回る価格下落が進んでいることが大きい。やはりテレビが主力のパナソニックも10年4~9月期は、前年度から続くテレビ事業での赤字を脱することができなかった。
サムスン電子でさえテレビ事業部門が営業赤字
「年間2割程度は価格が下落する」(パナソニックの大坪文雄社長)ことは各社も見込んでいるが、最近はさらに下落が進み、前年同月で比べた国内の1台当たりの平均価格は3割近く下がっている。下落に歯止めをかけることを期待された3D(三次元)映像に対応したテレビも例外ではなくなり、4~5月の発売直後に30万円台だった平均単価は10月には20万円を切る水準にまで下がった。
欧米で需要が弱含んでいることも痛手だ。米調査会社ディスプレイサーチによると、米国のテレビ市場は販売台数ベースで、5月から小幅ながら前年同月比割れが続いており、4~6月は前年同期比で3%程度減少した。米国でも価格下落は進んでおり、量で稼げなければ利益を圧迫する。このため、今や世界王者の韓国サムスン電子でさえ、7~9月期連結決算でテレビの事業部門が営業赤字に陥った。
また、国内では駆け込みでバカ売れとはいえ、新たに生まれた需要ではなく、明らかに先食いだ。2011年3月のエコポイント終了、7月の地上デジタル放送への移行前の計2回の駆け込み需要の「ヤマ」はありそうだが、その後についてはメーカー、量販店ともに大幅な減少を見込んでいる。稼げなくなったテレビをどうするか、各社とも中国やインドへの生産の「新興国シフト」を加速させるが、明るい展望までは描けないのが実情だ。