海保内の不満「爆発寸前だった」
英雄視するかどうかはともかく、今回の流出の動機は本当に「愉快犯」的なものなのだろうか。「官僚村生活白書」などの著書があり、海保取材歴も長いルポライターの横田由美子さんにきいてみた。
横田さんは、「愉快犯」との見方には否定的だ。底流には、一連の中国漁船衝突事件に対する政府対応への海保内の不満があったと指摘する。中国船船長逮捕に大臣がゴーサインを出しておきながら、結局は船長は釈放され、海保としてはハシゴをはずされた形だ。
さらに、自分たちの行動の「正当性」や「大変さ」を示せるはずの事件関連映像は、一般公開はおろか11月1日までは国会にすら開示されず、「命がけの捜査・撮影」は何だったのかとの怒りが「爆発寸前だった」のだそうだ。該当の保安官は、遠からず流出元が発覚し、職を失うことも視野に入れた上で行動した、と横田さんはみている。「突発的な思いつきで流出させたわけではない」というわけだ。
もっとも、海保内部では同保安官について、「自分に酔っている」「流出前から外部の人間(たとえばマスコミ関係など)と接触し、何らかの影響を受けたのではないか」などの厳しい見方もあるという。
それでも横田さんは、「愉快犯」説が広がることについては、自分たちの活動に対する政治家らの「無理解」への海保関係者の不満がうっ積している現状から目を背けることにならないか、と懸念を示す。
「英雄視して個人を過大評価してはいけませんが、愉快犯だとして問題を矮小化するのもおかしいと思います」
保安官本人は11月15日、弁護士を通じてコメントを発表した。「政治的主張や私利私欲に基づくものではありません」「今回の行動が、正しいと信じておりますが、公務員のルールとしては、許されないことであったと反省もしています」などとしている。