アジア太平洋経済協力会議(APEC)の議長国として無難に立ち回ったかに見える菅直人首相だが、政権の「ダッチロール」ぶりは逆に目立ち始めている。党幹部からは、民主党政権の根幹をなすとも言える「政治主導」を否定するかにとれる発言が飛び出したほか、地方での首長選挙も「連戦連敗」。敗戦の理由についても、仙谷官房長官と岡田幹事長とでは見解が分かれており、党内の統一感のなさを浮き彫りにしている。
2010年11月14日に投開票された福岡市長選では、民主推薦の現職・吉田宏氏(54)と自民・公明支持の元九州朝日放送(KBC)アナウンサーの高島宗一郎氏(36)が一騎打ち。
序盤は「与党が有利」とされていた
候補者が8人も乱立していたことから、序盤は「与党が有利」との観測もあったが、終盤で民主党が尖閣諸島のビデオ問題で批判を浴びたことが響き、高島氏が当選を果たした。
仙谷由人官房長官も、11月15日の会見で、
「地域の特性があるので一概には言えない」
と断りながらも、
「内閣に対する低支持率も少々関係しているのかな、と(思う)。そうだとすると、候補者の方々や運動された方には申し訳ないと考えている」
と、低支持率が選挙結果に影響しているとの見方を示している。
時事通信社が11月5日から8日にかけて行った世論調査では、菅内閣の支持率は前月比11.4ポイント減の27.8%と急落。政党支持率も、民主党が16.2%で自民党が16.5%。09年夏の政権交代以降、初めて両党の支持率が逆転した。日本テレビが11月12日から14日にかけておこなった調査も同様で、内閣支持率は前月比18.0ポイント減の29.4%。政党支持率も民主党が29.0%、自民党が28.9%と、民主党が自民党に追い抜かれるのも時間の問題だ。テレビ朝日が11月13日と14日に行った調査でも、傾向は同様だ。
「政治主導なんてうかつに言ったら、大変なことになった」
だが、このような状況に対して、「一喜一憂しない」という言葉を11月15日夕方の記者会見で繰り返したのが、民主党の岡田克也幹事長だ。西日本新聞の記者から、吉田市長の敗因を問う質問が飛ぶと、
「吉田さんは、大変残念だった。色々な理由があるが、この4年間の(市長としての)実績を評価した上での結果だった。民主党全体に対する逆風という面も否めないが、政党色と言うよりも、ご本人の評価という面があるのかなと思っている」
と、仙谷氏とは対象に、低支持率が選挙結果に与えた影響は比較的小さいとの見方を示した。
民主党は、10年夏の参院選に続いて、北海道5区の衆院補選で自民党の町村信孝氏に大敗しているほか、滋賀・栗東市長選でも敗北。さらに、新宿区長選や千葉・君津市長選、埼玉・三郷市長選などでは独自候補を擁立できずに「不戦敗」している。与野党が相乗りした福島県知事選や新潟市長選を除けば「連戦連敗」だ。支持率の下落傾向が続くようであれば、この傾向に拍車がかかるのは確実だ。
さらに、民主党にとって「泣きっ面に蜂」となりそうなのが、枝野幸男幹事長代理の発言だ。枝野氏は11月14日にさいたま市内で行った講演の中で、支持率低下に対する危機感を表明する中で、
「与党がこんなに忙しいとは思わなかった。『政治主導』なんてうかつなことを言ったら、大変なことになった。今、何より欲しいのは、ゆっくり考える時間と相談する時間」
と、民主党が政権の座についた09年夏の衆院総選挙で掲げてきた「政治主導」というスローガンを否定するともとれるもので、民主党支持者に失望感が広がるのは確実だ。
岡田幹事長は、11年4月に控えた統一地方選について
「なるべく候補者を多く立てて、しっかり戦うということに尽きる」
と述べるが、このままだと「現在の執行部では戦えない」との声もあがりかねない状況だ。