自民・谷垣総裁「最後はコントロールできなくなった」
こうした「船長を逮捕する際のもみ合い」情報が、「その結果、海保職員が海へ転落」と膨らんでいる可能性はある。実は、05年春に起きた韓国漁船の検査拒否事案では、韓国漁船へ飛び移ろうとした海保職員のうち1人が夜の海へ転落する映像を第7管区海上保安本部(北九州市)が公開していた。尖閣諸島を受け持つ第11管区海上保安本部(那覇市)とは関係ないが、こうした映像がネットに出回り、勘違いを生み出している可能性もある。
「海への転落映像がある」情報だけでなく、「転落した海保職員の死亡説」もいまだに流布が続いている。沖縄の葬儀屋から「モリで突かれて死亡した海保職員の葬儀を自分が行った」と聞いたと沖縄の人が話していた、という「新しい」話もあるようだ。
こうした空気を反映してか、ネット上などでは「一般への映像(ほぼ)全面公開」を求める声が少なくない。もはや国会での海保長官の否定答弁など信じられない、ということなのだろうか。それは、「一般公開」を先導した形の映像を流出させた海保職員への「英雄視」にもつながる。
自民党内からも、「日本の正当性を国民と世界に示した」(安倍晋三・元首相)と「流出」を肯定する意見が出る中、同党の谷垣禎一総裁は10年11月14日、ある懸念を示した。旧日本軍の青年将校らが「昭和維新」などを掲げ、高橋是清・大蔵大臣らを暗殺した2・26事件を例にあげ、「若い純粋な気持ちを大事にしなきゃいかんと(当初は一部が)言っていたが、最後はコントロールできなくなった」と、今回の流出騒ぎの「英雄視」に釘をさした。
先の週刊ポスト記事では、ジャーナリストの惠谷治氏が「菅政権の対応の弱腰ぶり」などに対して海保職員が気持ちを抑えることができなかったのだろう、として「その意味で平成の『2・26事件』といえなくもない」と指摘している。
10年11月15日、ネット上に流出した44分の「尖閣ビデオ」について、国会での公開を求める野党側に対し、民主党が慎重姿勢を変えなかったため、衆院予算委員会は野党の出席拒否で開会がずれ込むなど混乱した。