国際会議を舞台に米中の対立が先鋭化している。2010年11月11、12日に韓国・ソウルで開かれる主要20カ国・地域首脳会議(G20サミット)の前哨戦となったG20財務相・中央銀行総裁会議(10月22~23日)では、中国に人民元切り上げを迫る米国が、議長国の韓国とともに経常収支の数値目標導入を提案し、中国の激しい反発を招いた。米政府高官はG20サミットでも人民元問題を取り上げる意向を示しており、通貨をめぐる攻防戦が続きそうだ。
韓国の古都、慶州で開かれたG20財務相・中央銀行総裁会議の初日、ガイトナー米財務長官は突然、各国の経常収支の黒字幅、赤字幅を2015年までに国内総生産(GDP)比4%内に制限する目標の設定を切り出し、議長国の韓国が同調した。出席者によると、この日の議論は「目標設定の是非で持ちきりになった」というが、中国は怒りを隠せなかったようだ。
安い為替レートで不当に輸出を増やしている
米韓は提案理由を「世界的な貿易不均衡是正のため」と説明。しかし、産油国などは例外とされ、経常黒字の日本やドイツも15年の予想は4%内に収まる。実際に目標に沿って経常黒字を削減しなければならなくなるのは中国だけで、「米国の真の狙いが人民元切り上げにある」(日本政府関係者)のは明らかだったからだ。
金融危機後の景気回復が遅れ、失業者数が高止まりしている米国では「中国は実力より安い為替レートで不当に輸出を増やし、米国の雇用を奪っている」との批判が強い。だが、米国が正面から人民元切り上げを求めても、国内の経済格差など複雑な事情を抱える中国は応じない。そこで、中国に経常黒字の削減を約束させれば、中国は目標達成のために人民元を切り上げざるを得なくなる――という狙いだ。
「中国に痛烈なパンチを浴びせることには成功した」
出席者によると、中国交渉団は初日の会議で米韓の提案が出た後、ほとんど発言しなかったという。会議後の会見も開かずに会場を立ち去り、提案への反発をにじませた。結局、翌日の会議では中国だけでなく、日独も数値目標設定に慎重姿勢を示し、共同声明には「参考となるガイドラインの策定」とだけ盛り込まれた。米国の提案は空振りに終わった格好が、それでも「中国に痛烈なパンチを浴びせることには成功した」(交渉筋)といえる。
ブレイナード米財務次官は11月1日、G20サミットの主要テーマについて会見し、強制力のある数値目標の設定は断念したことを明らかにしたが、「過小評価されている新興国通貨は、市場実勢に見合った水準になるべきだ」と中国にクギを刺すことを忘れなかった。一方、ドル安・新興国通貨高を招く米国の金融緩和に対する新興国の不満も頂点に達しており、サミットでは激しい駆け引きが展開されそうだ。