生物の成分を改良した「派生物」の扱いは不透明
また、国内法で遺伝資源持ち出しを厳しく制限している途上国があるが、議定書は各国に担当窓口を置くことを求めており、「利用手続きの透明化や時間の短縮が進む」(大手医薬品メーカー)と期待されている。例えばアステラス製薬は00年からマレーシアの研究機関と契約し、熱帯雨林の微生物を採取する対価として利用料を支払い、医薬品の研究開発に活用しているほか、メルシャンはインドネシア、出光興産はベトナム、カルピスはモンゴルで、それぞれ遺伝資源の活用に着手しており、こうした遺伝資源利用が国際ルールとして共通化され、相手国と交渉しやすくなりそうだ。
ただ、生物の成分を化学合成などで改良した医薬品などの原料となる「派生物」の扱いは不透明だ。利益配分が発生する遺伝資源の対象とするかどうかは玉虫色の文言になった。個別契約で決めることになるが、「解釈次第で企業に巨額負担は発生しかねず、新興国との摩擦に発展しないか心配」(製薬業界関係者)との懸念も出ている。
直接遺伝資源を利用する医薬品や食品業界以外も無関係ではない。ある特殊な金属の採掘でアフリカの希少生物の生息が脅かされるとの環境保護団体のキャンペーンで、対象の金属が製品に使われていないか、電機メーカーがあわてて点検するなどのケースがある。熱帯雨林の保護に絡み、原料の植物性油の調達先を変更した食品メーカーもあるという。原材料の調達がグローバル化し、製品の販売も世界に広がる中で、生物多様性も含め、環境への配慮は今や企業活動の前提条件だ。
多様性とは違うが、2001年、ソニー・コンピュータエンタテインメントが、ゲーム機プレイステーションの周辺機器から基準値を超えるカドミウムが検出されたとしてオランダ政府から対応を求められ、欧州全域で何十億円を投じ、製品の回収と対策品の置き換えを余儀なくされた例がある。たとえ取引先のミスだったとしても、そのツケは払わされる時代だけに、名古屋議定書、愛知ターゲット採択を受け、企業はよりキメ細かい対応が求められてる。