警察内部資料とみられる国際テロ関係情報などがインターネット上に掲載された問題は、「故意による本物資料の流出」の可能性が高まっている。「犯人」は、「パソコンのウイルス感染」ではないということだ。では、組織に恨みをもった者の内部犯行なのか、日本の信頼失墜をもくろんだスパイ工作なのか、それとも……。
「警察当局は過失ではなく故意に流出させたとみており、刑事事件に発展する見通しが強まった」。
2010年11月4日、産経新聞は同日付朝刊でこう報じた。
「テロ対策協力者」実名も
新聞各紙の報道などによると、「資料は本物でかつ故意による流出」の可能性がきわめて高そうだ。10月29日に外部機関からの警察への指摘で「流出」が判明し、30日夕から夜にかけ、テレビニュースや新聞(電子版)各社が報じた。その後も続報が次々伝えられている。
資料は、警視庁公安部外事3課関係だけでなく、警察庁や愛知県警の資料とみられるものも含まれ、極秘文書も多数あるようだ。
ファイル交換ソフトがウイルス感染して捜査資料が流出した例は過去にある。しかし、今回はパソコンユーザーのメールなどの個人情報流出がなく、捜査資料に特化した「不自然」な形になっていることなどから意図的流出の線が濃いと見られている。
さらに報道によると、100点を超える今回の資料は、5、6年前のものもあり、そもそも1人の担当者では所有できない分野・担当にまたがっている模様だ。外部とは接続されていない要パスワードの専用サーバーに情報を登録することもあるようだが、重要度の高い文書は、庁内専用パソコンでしか閲覧できず、外部記録媒体にデータをコピーしようとすると警報が出る仕組みになっている、との指摘もある。
今回の資料には、テロ対策の協力者実名など極めて秘匿性の高いものも含まれており、「身内も信用しない」ともいわれる公安部捜査員は共用データベースには保管しないであろう文書まであるようだ。
APEC首脳会議前というタイミング
また、「流出」にはルクセンブルグのサーバーを経由した記録が残っているとも伝えられるが、最初に使われたサーバーはまだ分かっていないようだ。文書書式もネット送信・閲覧に便利なように改変されているとも伝えられる。
以上のような点からは、厳重な「壁」をかいくぐって資料収集し、「流出」も「捜査かく乱」を視野に入れている「手の込んだ」犯人像が浮かんで来る。ミスや事故、いたずらなどの範疇ではとても収まりきれない「執念」のようなものすら感じられる。
「外部犯行説」も否定はできないが、「犯人像」もしくは「協力者像」としては、内部か内部に極めて近い人物が浮かんできても不思議ではない。
動機はどんなことが考えられるのだろうか。組織や特定上司などへの「恨み」なのだろうか。それとも、養成されたスパイが警察内部にいて、今回の「流出」で日本のテロ捜査網の信頼を世界的にも国内的にも失墜させようとしているのか。各国捜査機関は「日本へは情報を流せない」、国内の協力者たちも「怖くて協力できない」状態となれば、日本のテロ捜査網は壊滅しかねない。
10年11月13日からは横浜市でAPEC(アジア太平洋経済協力会議)首脳会議が始まる。今回の「流出」には、APEC警備関連の資料はなかった模様だが、「流出第2弾」の可能性を含め油断は禁物なのかもしれない。11月3日付の毎日新聞朝刊は、「意図的に内部文書が流された可能性もあるとみて、職員らから聞き取り調査を続けている」と報じている。