JR東海のリニア中央新幹線(東京-大阪)計画について、交通政策審議会(国土交通相の諮問機関)の中央新幹線小委員会が、南アルプスをトンネルで貫くほぼ直線の「南アルプスルート」が費用対効果などの面で「優位」とする分析結果をまとめ、事実上決着した。
これにより東京-名古屋が2027年度、東京-大阪は2045年度に開業するというJR東海の計画に沿って、最高時速500キロの「夢の超高速鉄道」構想は実現に大きな一歩を踏み出した。
表立った政治介入は「なかった」
JR東海はルートの候補として、「南アルプスルート」のほか、南アルプスを北に迂回する「伊那谷ルート」、さらに遠回りする「木曽谷ルート」の3案を提示、同審議会は2010年3月から各ルートの利便性や経済波及効果などを検討してきた。その結果、東京-大阪の所要時間67分、建設費9兆300億円という「南アルプスルート」が所要時間、建設費とも優位と認定し、南アルプスをトンネルで貫く建設技術についても「問題はない」と判断した。長野県は「伊那谷ルート」を主張してきたが、6月に、同ルートに固執しない姿勢に転じていた。
3案は1978年に示されたが、当時は「南アルプスルートは技術的に困難」というのが常識で、「伊那谷」、「木曽谷」それぞれを求める地域間の激しい議論の末、長野県は89年、「伊那谷ルート」要求に一本化した。しかしその後の技術革新で状況は一変。JR東海は07年12月、南アルプスルートでの建設方針を表明。09年6月には「1県1駅」を正式表明した。
そして、南アルプスルートの駅の有力地、飯田市など同ルートを求める地域と、伊那谷ルートを求める地域との溝が表面化し、県内の意見の一本化が難しくなった。このため、2010年6月、村井仁知事(当時)が特定の要望ルートを明言しない中立方針に転換。南アルプスルートの「既成事実化」を着々と進めるJR東海に、県が押し込まれる形になった。
鉄道といえば、政治家の「我田引鉄」といわれる利益誘導が常で、リニア実験線が山梨県を走るのも「県出身の金丸信・元自民党副総裁(故人)の影響力で誘致できた」(県幹部)と言われる。だが、今回は長野県内の利害対立、政策決定過程の透明化を求める世論高まりもあって、表立った政治介入は「なかった」(国交省)という。
東京-新大阪は2時間25分から1時間7分へ
JR東海の計画では、リニアが開業すると、東京-名古屋は東海道新幹線の1時間40分から40分、東京-新大阪は2時間25分から1時間7分へ、大幅に短縮。ルートで沿線企業に年8700億円の経済効果があるという。東京-大阪の料金も新幹線より1000円高いだけで、移動時間ではほぼ同じ航空路線(普通運賃2万2600円)を大きく下回ることになるといい、航空機の利用客がリニアに流出する可能性もささやかれる。
JR東海にとって、リニア建設は悲願だった。特に1964年の開通から半世紀近く経つ東海道新幹線は、同社の利益の9割を稼ぎ出すが、遠からず大改修が必要になる。それへの備えとしてリニアは不可欠なのだ。
思惑通り南アルプスルート採用に成功したJR東海だが、巨額建設費のハードルは低くない。リニア東京-名古屋の建設費5兆円以上を全額自社負担する方針で、借金で賄う計画だが、同社の累積債務は既に約3兆円あり、リニア開業時には民営化直後と同じ5兆円程度に膨らむ見通し。景気動向の不透明さに加え、最深部で地表から1400メートル下を通るトンネルを掘るのは難工事で、建設費の増加や開業時期のずれ込みなどの懸念は残る。
中間駅も難題。途中の神奈川、山梨、長野、岐阜、三重、奈良の6県に各1駅設置する方針で、JR東海は東京、名古屋、大阪の各駅は自分で整備するが、途中駅は国や自治体に費用負担を求めている。建設費は地上駅でも350億円程度、地下駅なら最大2500億円とも試算され、財政難の中、自治体との調整は難航しそうだ。