漢字にある種のカッコよさを感じている?
若者の漢字好きについて、前出の井上史雄教授は、変換のしやすさに加え、ある社会的な心理も影響しているのではないかとみる。
「若者は、漢字にある種のカッコよさを感じています。それは、壁の落書きに難読漢字を連ねた昔の暴走族の心理に通じるものですよ。今の若者は、ケータイでわざと難しい漢字を使っているんです」
それは、長引く不況などによる未来への絶望感も、ある程度関係しているという。未曾有の就職難が続いており、大学を卒業しても、フリーターにしかなれない若者がたくさんいる。そんな状況下で、いわば反社会的な行為として、難読漢字を多用しているというのだ。
井上教授によると、若者の「カッコよさ」として、使う言葉には2つの方向性がある。
1つは、アルファベットのカッコよさだ。その背景に、街頭の看板などで、商品名や会社名などにローマ字表記の横文字が増えていることがある。テレビ番組の影響もあり、「○○で」を「○○de」と使う学生がかなりいるという。自分の名前の後に「@会社名」などと、ネット特有のアルファベットを使うケースも多い。
井上教授はこれを「明らかなプレステージ(威厳)」と呼び、難読漢字を使う「隠されたプレステージ」と区別している。漢字好きには、英語も得意でないような学生も多く、アンチテーゼとして古めかしい漢字をわざわざ使っているとみているのだ。
もっとも、漢字好きといっても、手書きがうまいわけではない。「書けない」「書かない」若者もたくさんおり、書いても誤字が多いという。難読漢字は、あくまでも絵文字や顔文字のような「飾り」「アクセサリー」であり、本来の使い方はされていないのではないかとしている。