菅直人首相と中国の温家宝首相の日中首脳会談が、中国側の一方的な通告で中止となった。尖閣問題に揺れる日中関係改善のため、いったんは開催が決まったようだが、不可解なキャンセルに日本側は衝撃を受けている。
中国側は、日米外相会談で尖閣諸島が日米安全保障条約の範囲内とされたことに不快感を示し、また東シナ海のガス田開発について日本側が「歪曲して報道機関に情報を流した」と一方的に決めつけて非難、すべての責任を日本側にあるとした。ところがその後、今度は10分間と短時間の非公式ながらも両首相の会談が実現。中国側の「気まぐれ」に、日本は振り回される一方だ。
「すべての責任は日本側が負うべき」
東南アジア諸国連合(ASEAN)関連会議出席のためベトナム、ハノイを訪問した菅首相と、中国の温首相の首脳会談が、2010年10月29日夜に開催される見通しだといったんは報じられた。同日午前に行われた日中外相会談を受けて、ギクシャク続きの日中関係の改善に向けたトップ会談に、日本の政府関係者も期待をにじませた。
ところが急転直下、中国側から突然の会談中止の発表だ。理由について中国国営の新華社通信は、中国の胡正躍外務次官補が、尖閣諸島問題について「日本の外交責任者が他国とともにあおった」と非難したと報じた。これは前原誠司外相と米国のヒラリー・クリントン国務長官が10月27日に会談し、クリントン長官が「尖閣諸島は日米安保条約の範囲内」と発言したことを示すものと見られる。
さらに胡次官補は、29日の外相会談についても、東シナ海のガス田開発について日中双方が協議再開で合意したとの情報が流れ、日本が事実を歪曲して流したと批判し、「すべての責任は日本側が負うべき」とした。中国側の主張はほとんど事実に反し、いいがかりのようなものだ。
首脳会談中止の原因を記者団に問われた前原外相は。「中国に聞いてください」といらだった口調でひと言。また菅首相に同行している福山哲郎官房副長官は、「非常に驚いた」と話し、「中国側の真意をはかりかねている」と困惑した様子を見せた。政府関係者も、ガス田開発の報道について「日本側が情報を流した事実はない」とした。問題の記事は仏AFP通信が配信したもので、外務省はその後AFPに訂正を申し入れ、「協議再開に合意」の表現は修正された模様だ。
前原外相「狙い撃ち」と見る向きも
複数の報道によると、福山副長官は、現地時間29日18時30分に首脳会談がセットされたが、直前になって中国側から中止の通告があったことを明かしたという。「クリントン発言」も外相会談の結果も踏まえた上で中国側が会談実施にゴーサインを出したことになり、胡次官補が挙げた中止の理由としては疑問が残る。
前原外相も、外相会談終了後に「首脳会談はハノイで行われることになろうかと思う」と記者団に語ったという。中国の楊外相との話し合いで何らかの手ごたえがあっての発言と思われる。一部では、「対中強硬派」と見られ、尖閣問題に対する一連の中国側の対応に「極めてヒステリック」などと発言していた前原外相を中国が「狙い撃ち」したのではないかと見る向きもあるようだ。
民主党の枝野幸男幹事長代理は30日午前、報道陣に対して今回の首脳会談中止について「中国側に問題がある」と指摘。さらに、日本側から頭を下げてまで首脳会談の再設定をするものではないと話した。一方、米国務省のクローリー次官補は、日中間が対話を継続するよう促した。
こうした事態に、自民党の山本一太参院政審会長は30日朝のテレビ番組で、「中国側の出方を読めないのはアマチュア」と民主党政権を批判した。
そんな中、30日昼になって菅首相と温首相が10分間、非公式に会談したと伝えられた。短時間ながら両首相とも「今回首脳会談が行われなかったのは残念」と話したという。
いずれにせよ、いいように中国に翻弄され、結果的に日本外交の敗北であるのは間違いない。