尖閣沖の衝突事件では、中国漁船の船長らが海保の巡視船に対し、かなり威嚇的な態度を取ったと報じられている。編集前の撮影ビデオには、何が写っていたのか。その具体的な内容について、海保は、意味深な説明をしている。
「ビデオは、2時間ではきかない、相当な長さですよ。何しろ、巡視中ずっとカメラを回しているわけですから」
「漁師がモリ」説は明確に否定
海上保安庁広報室の報道官は、取材に対し、こう説明する。
事件が起きたのは、2010年9月7日の午前10時15分ごろ。説明によると、海保の巡視船では、それから船長逮捕の翌日午前2時過ぎまで、16時間もカメラを回していた可能性もある。しかも、巡視船は複数隻に上るため、ビデオはそれ以上の膨大な長さになる計算だ。
もっとも、2回の衝突前後だけに絞ると、もっと短くなるはずだ。しかし、数種類のビデオと報じられているように、巡視船ごとにビデオはあるといい、迫真の場面が何時間なのかははっきりしていない。
国会に10月27日提出されたビデオは、報道によると、わずか6分50秒に編集されている。これに対し、海保の報道官は、那覇地検からの要請でビデオ内容について協議したことを認めた。しかし、内容そのものについては、地検が責任をもって提出したとして、ビデオの時間も含めて分からないとした。
そもそも編集前のビデオには、何が映っていたのか。
東京都の石原慎太郎知事は、フジテレビ系で24日放送の「新報道2001」の中で、側聞だと断ったうえで、巡視船の乗組員が何かの弾みで海に落ちたのを、中国漁船の漁師がモリで突いていたとの情報を明かした。これについては、政府が29日の国会答弁で明確に否定。海保の報道官も、海に落ちた事実はなく乗組員にケガはないとして、「常識で考えると、そうなれば乗組員が石垣市内の病院に運ばれています。だれがいい加減なことを言ったのか、怒りを覚えます」と話している。
「あったかないかも含めて、こちらで情報はない」
ところが、週刊新潮の2010年10月21日号で「国辱シーン」とされた船長の態度については、海保の報道官は、明確な否定を避けた。
新潮の記事では、中国漁船の船長は、巡視船が近づいてくる間、何かを怒鳴りながら、中指を突き立てる挑発行為をしていたと報じている。これは、ビデオを見た菅直人首相の側近からの証言だという。海保の報道官は、この記事について、こう答えたのだ。
「秘密事項ですので、捜査部門しか知りません。そのような行為があったかないかも含めて、こちらで情報はないです。事件の故意性の有無に関わる捜査上の問題であり、コメントは控えさせて下さい」
なんとも意味深な説明のようにも思える。
また、新潮では、船長は相当量のアルコール類を飲んでいて、異様に酒臭くふてぶてしい態度だったとしている。この点については、「『船長は正常に判断できる状態だった』という模範解答を与えられ、統一してこう答えてくれと言われています。後は、ご想像にお任せします」。結局、飲酒していたかについて、明確な否定はなかった。
産経新聞が漁船が加速して衝突したと28日に報じたことについては、「物理学的に考えると、同じスピードでは後ろからぶつかりませんよ」とこれも否定しなかった。
法務省では、ビデオを編集したことについて、今後の取り締まりに支障がないよう考えたことや関係者のプライバシーなどを配慮したと説明している。この意味について、海保の報道官は、「複数の巡視船がどんなフォーメーションを組んだかが分かってしまいますし、被疑者や捜査員の顔が出てしまうからです」と説明する。那覇地検は、公益性の高い必要な部分だけ提出したという。
ただ、中国漁船の船長らから抵抗されたり、失礼なことをされたりといったトラブルの報告は受けていないとしている。