人気法律番組などで知られる、弁護士でもある自民党の丸山和也参院議員が、仙谷由人・官房長官を刑事告訴する方向で検討している。仙谷長官から「いい加減な人」と記者会見で「侮辱」されたからだという。官房長官が記者会見を巡り捜査当局に訴えられるという異常事態に突入するのだろうか。
「『200%侮辱罪』自民丸山氏が仙谷氏『いい加減な人』発言に告訴を検討」。産経新聞(ウェブ版)は2010年10月26日夜、こんな見出しで丸山議員の発言を報じた。
記者会見で「いい加減な人のいい加減な発言」
丸山議員は10月26日、参院法務委員会で自身に対する仙谷長官の「いい加減な人」発言についてこう指摘した。
「明らかにほぼ200%侮辱罪に該当すると思います」「手続き的には告訴するなりして捜査当局の方で事件になるんじゃないかと思いますので……(略)」
そもそもの発端は、10月18日にあった参院決算委員会での丸山議員が行った質問だ。尖閣諸島周辺における中国漁船船長の逮捕・釈放問題を取り上げた。
船長釈放の報道をみた丸山議員は、「びっくりして」、「弁護士仲間」でもある仙谷長官に「(電話で)連絡取らせてもらった」。法に従って船長を訴追し、などの丸山議員の考えを述べたところ、仙谷長官は「そんなことしたらAPEC(11月に横浜で開催予定のアジア太平洋経済協力会議)が吹っ飛んでしまう」「そこまでやってええっちゅうことなら別やけど」と答えたというのだ。
船長釈放の判断は、検察当局が独自に行ったもので政治的働きかけはなかったことになっている。丸山議員の指摘が本当なら、この公式見解を揺るがしかねないことになる。
これに対し、仙谷長官は「最近健忘症にかかっているのか何か分かりませんが」と前置きし、「議員がこの場で暴露されたような会話をした記憶は全くないことをまず申し上げておきたい」と否定した。
さらに仙谷長官は翌19日の記者会見で、丸山議員とのやりとりについて「こういういい加減な人のいい加減な発言については全く関与するつもりはありません」と、ときおり体を左右に揺らしながら吐き捨てるかの様にコメントした。この模様はテレビニュースなどで報じられた。
丸山議員「なぜ委員会で反論しなかったのか」
そして今回の26日の参院法務委員会での丸山議員の発言につながる。仙谷氏は、参院予算委員会での「出席官僚へのどう喝」などについて25日の参院予算委などで謝罪しているが、丸山議員は、「具体的に私の(に対する)発言への謝罪ではなかった」と法務委員会で指摘した。
丸山議員は本来、仙谷氏の「力量」を高く評価していたといい、「友人ということもあり、一目も二目も三目も置いていた」そうだ。しかし、一連の発言を受け、言うべきことは言わせてもらおうと考えを変えたとも明かした。
丸山議員は本気で侮辱罪での刑事告訴を考えているのだろうか。本人にきいてみると、「刑事告訴する方向で検討しており、民事の方も考えている」との回答だった。
丸山議員は、仙谷長官が国会委員会では「健忘症」などと「逃げておきながら」、翌日の記者会見になって「人(丸山議員)を批判した」姿勢を問題視している。なぜ委員会の場で反論しなかったのか、というわけだ。
また、仙谷長官との問題の電話でのやりとりについては「私的な会話のついでに出たものではなく、冒頭から私は(国会議員として)尖閣問題で抗議の話をしており、いわば公的なやりとりだ」とも指摘した。私的な会話を暴露した、という批判は当たらないとの考えを示したものだ。
今回のケースでは侮辱罪は成立するのだろうか。丸山議員もかつて出ていた人気番組「行列のできる法律相談所」(日本テレビ系)へ出演している、菊地幸夫弁護士に聞いてみた。
菊地弁護士によると「形式的には侮辱罪に当たるとは思う」とした上で、「しかし、今回は政治家同士の国会を巡るやりとりであり、実質的には違法の程度には至っていないのでは」との見方を示した。与野党で互いに批判し合うことが多い政治家、という立場を考えれば、今回のケースも本人同士が論評し合って解決すべきだ、という提言だ。侮辱罪は親告罪なので、丸山議員が告訴しなければ、捜査当局が独自に立件することはない。