「国難といえる時に自分だけ辞めていいのか」。自身の引退撤回論に批判が出ていることについて、鳩山由紀夫・前首相はこう反論した。しかし、識者からは「鳩山前首相の引退撤回こそ新たな国難だ」との指摘も出ている。
「オウンゴール」「敵(野党)に塩を送る」――鳩山前首相が引退撤回の方向の考えを示したことを受け、2010年10月26日付朝刊の読売新聞は、1面コラム「編集手帳」欄でこう皮肉った。
朝日新聞「前言撤回は残念でならない」
一方、同日付朝日新聞朝刊の社説は「かくもあっさり撤回するとは驚くほかない」「首相経験者の新たな役割モデルを打ち立てることも期待できただけに、前言撤回は残念でならない」と嘆いた。
首相経験者が「院政」のように党内で影響力を及ぼすことを鳩山前首相は首相就任前から批判しており、10年6月の首相退任時にはテレビカメラの前で「次の総選挙には出馬致しません」と断言した。しかし、後に徐々に軌道修正を始め、報道各社によると、10月24日には訪問先のベトナムで「議員を続ける方向に気持ちは傾いている」と語り、批判の声が挙がると、25日には「国難といえる時に自分だけ辞めて『はい、さようなら』でいいのか」と反論した。
野党幹部らからは、「国民の不信を増加させる」「言ったことと行うことが次々と逆」と一斉に批判を受けている。インターネットの2ちゃんねるなども、ざっと見た範囲では擁護論は多くなく、ほぼ袋叩き状態と言えそうだ。
民主党内からは、「政治家の出処進退は、ご本人がすることだ」(菅直人首相)、「議員の身分に関することは他人がコメントすべきではない」(岡田克也幹事長)と「一般論」が聞こえてくる。
確かに「政治家一般」についてはその通りなのだろう。が、問題は、首相経験者が後々まで影響力を行使することを批判していた人物が、首相退任時にテレビの前で公に「次の総選挙には出馬は致しません」と述べたにもかかわらず、その前言を翻して問題はないのか、という点にありそうだ。