北海道秩父別町(ちっぷべつちょう)が通常250万~300万円する1区画460平方メートルの宅地を460円で分譲すると発表したところ問い合わせが殺到、あっという間に13区画のうち10区画の販売が決まった。購入の動機は土地の安さと老後を大自然の中で満喫したいという人が多いようだが、実は過去にも北海道で宅地を無料で提供するとし大反響となった町があった。
応募者が大挙したものの、辞退となったのだ。大自然への憧れや、無料の魅力に惹かれ移住を決めたのだが、現地を訪れてみて冬の雪や寒さに耐えられなかった、などが理由だ。移住申込者殺到の秩父別町も、「土地の購入を決めた方に本当に住んでもらえるかどうか、不安がないわけではない」と話している。
申し込み殺到してもキャンセル覚悟
過疎化に悩む秩父別町が人口増加と町の活性化を狙い2010年8月から9月にかけ8区画を460円で売り出したところ、7区画が売れ、新たに5区画を加え13区画に。現在は10区画が売れている。10月8日に残りの3区画の募集を開始したところメディアが取り上げ大反響を呼び、18日から19日にかけ100件の問い合わせの電話が殺到。40部のパンフレットを送付することになった。ホームページのアクセス数も通常なら1日に150程度だったが、それが2万5000にも増えた。
秩父別町企画課企画グループによれば、購入希望者はまず土地の安さに惹かれ、秩父別町が旭川や札幌といった大きな市に距離が意外と近いことに驚き、そして、検診の補助や出産育児支援など医療福祉が充実していることに興味を示しているという。購入希望者のあまりの多さに「通常の仕事が手に付かないほど電話対応に追われている」と担当者は嬉しい悲鳴を上げている。
ただし、この人気を手放しで喜んでいいのか、という不安もある。それは土地購入の契約者達が、本当に家を建てて住んでもらえるのか、ということだ。
「移住した後に、こんなはずではなかった、と言われては困りまし、契約した人からのキャンセルが出る可能性もあります。それは覚悟しています」
と担当者は打ち明ける。
実は北海道では八雲町と標津(しべつ)町が所有している土地を無料で譲渡すると発表し大きな話題になったのだが、未だに空きがある。八雲町は05年に7区画の宅地を用意したがこれまで建った家は1軒。標津町は06年に全58区画を用意し、同年10月に28区画の提供を始めたのだが、現在の契約者は15で、立っている家は13軒に留まっている。しかも13軒のうち7軒がもともと地元に住んでいた土地を所有していなかった人達。さらにもう1軒は隣町に住んでいた人だ。
標津町が宅地を無償で提供するというニュースが出た時には大量の問い合わせがあり、担当者は対応に追われた。応募者の大半は本州に住んでいて、定年後の生活を考えている人達からだった。標津町はサケの水揚げ日本一の町として知られるが、冬は気温がマイナス20度前後まで下がることもあり、積雪は50センチから60センチ。屋根の雪下ろしや雪掻きが必要だ。また、厳しい冬に耐えるための家が必要で、建設費は坪当たり50万円から60万円。一軒建てるのにおおよそ2000万円から3000万円かかる。
移住者の大半は昔からのファン
標津町では移住を希望する人達に安心して住んでもらえるように、町の説明を徹底。冬の様子を知ってもらうため、冬に旅館に泊まるなど体験してもらい、納得して住んで頂けるように呼び掛けた。
その結果、契約を辞退する人も出て、無償で分譲した土地のもらい手は予想を大きく下回った。標津町企画政策課はこう話す。
「確かに冬は厳しいですけど、慣れてしまえば冬だったとても快適に過ごせる町です。大自然も満喫できますし、北海道自体が移民の地ですから新しく入ってきても住民と解け合えます。ぜひ移住してきていただきたい」
現在、本州から移住して来た人達の殆どは、昔から標津町のファンで何度もこの地を旅行で訪れていた人なのだという。
移住の問い合わせが殺到している秩父別町は、標津町や八雲町の様子を見ていて、土地購入の契約を終えた人達に対し、本当に移住してくれるのかこれから何度も確認していくのだという。販売する居住区画は水道や電気などのインフラはまだ整備しておらず、移住希望者が家を建てる「確定」をもって整備に当たるとしている。