フォルクスワーゲングループジャパン(VGJ)がカーシェアリングの仕組みを利用したフォルクスワーゲン(VW)車の試乗システム構築に動き出した。VGJのメールマガジン読者を対象に募集した会員制の試乗実験「フォルクスワーゲン丸の内試乗プログラム」を2010年10月1日にスタート。東京駅前に試乗車2台の貸し渡し拠点を設け、12月まで実施する。
試乗で購入に意欲をみせた利用者の情報を販売店に連絡して販売につなげる。利用状況や販売実績がどうなるかに、各メーカーや輸入業者の注目が集まっている。
カーシェアリングシステムを利用
丸の内試乗プログラムの運営はフォルクスワーゲン・ファイナンシャル・サービス・ジャパン(VFJ)が行っている。VFJは2009年、アウディジャパン、住友不動産の2社と組み、東京都港区の泉ガーデンでアウディ車3台を用いたカーシェアリング「アウディ プレミアム カーシェアリング」を開始し、カーシェアリングの運営に対するノウハウを蓄積してきた。
泉ガーデンは高級賃貸マンションと企業のオフィスなどが入居した高層ビルからなる職住複合施設。都心に暮らす富裕層にアウディ車の購入を検討してもらう機会がつくれ、新車販売に繋がると考えた。また住友不動産は、アウディ車を使用したカーシェアリングは入居者に対する付加価値の高いサービスとなり、他の高級賃貸マンションにも展開できると睨んだ。
だが公共交通機関が発達した地域であることに加え、カーシェア会員が魅力を感じる料金や車種の設定などに問題があるとされ、大成功とはいえない状態にある。このためアウディジャパンとVFJは泉ガーデンのカーシェアリングシステムを利用したアウディ車の有料試乗実験を5~7月に平日限定で実施した。これは平日のカーシェアリング利用が想定したよりも少ないため、車を有効利用する狙いがあった。
試乗車はクーペ「シロッコ」とSUV「ティグアン」
この経験を踏まえてVFJは今回、VGJとの試乗実験に取り組んだ。用意した試乗車はクーペ「シロッコ」とSUV「ティグアン」の2台。試乗車を利用しやすくするために、貸し渡し場所は就業人口が多く認知度も高い地域にある東京駅前の高層ビルの地下駐車場に設けた。VW車に興味のある客層であるメールマガジン会員の中から募集し、応募があった510人の中からさまざまな地域の居住者40人を選んだ。利用料金は無料で1回あたりの最大利用時間は24時間、ガソリン代や通行料金などは自己負担となっている。
VGJが想定する利用形態は、丸の内試乗プログラムを通勤時に利用して実車を確認すること、遠隔地の会員が都心に遊びに来たときの都内観光の足として利用することなど。VGJは会員が利用するたびにアンケートを行い、販売店からの案内を承諾した人の情報を居住地に近い販売店に渡す。
これにより販売店は、これまで店舗まで来なかった客層と商談を行うことが可能になるという。
自分の都合が良いときに興味がある車を販売店のセールスと出会わずに試乗できるシステムは、これまであまり例がない。自動車メーカーやインポーターにとっては、消費者に車を試乗してもらって購入意欲を高めてもらう機会をつくることは大きな課題。販売店にとっても車が売れる可能性が高い見込み客をVGJから紹介されることは、販売効率があがることになる。
カーシェアリングの仕組みを用いた試乗システムは、自動車販売業界にとって新たな営業手法に成長すると考えられている。VGJは丸の内試乗プログラムの実験が販売に結び付けば、さらに都内の他の場所や大都市へと展開する構想を持つ。消費者が販売店まで行かなくとも、好きな車を都合の良いときに試乗することができ、自分自身が決めたルートで車の実力を試せる時代が到来しそうだ。