鈴木宗男・元衆議院議員が故中川一郎氏の自殺の原因を「初めて明かす」とした手記を雑誌に発表した。遺族側は鈴木氏が自殺の引き金になったと主張しているほか、KGBスパイ説、KCIA秘密資金説など様々な説がメディアに流れたが、いずれも間違いだとしている。
この手記は、故中川昭一衆議院議員の未亡人、中川郁子さんが「文藝春秋」2010年10月号に掲載した「義父中川一郎、昭一『親子連続怪死』の全真相」に反論するために書かれた。
「お前に、俺は殺された。俺は死ぬしかない」
郁子さんは一郎氏の自殺は精神的変調のためとし、中川氏が鈴木氏に対し「お前に、俺は殺された。俺は死ぬしかない」などと怒鳴り殴っていたというエピソードを紹介し、鈴木氏が自殺の原因と取れる書き方をしている。鈴木氏と中川氏の遺族の主張は真っ向から対立したままで、真相は未だにやぶの中だ。
鈴木氏の手記は「新潮45」の2010年11月号に「中川一郎先生の名誉のために今、初めて明かす『自殺の原因』」というタイトルで掲載されている。鈴木氏は北海道開発局の工事などを巡り受託収賄で有罪となり収監されるが、国会議員バッジを外したのを機に、27年間ずっと秘めてきた中川氏の自殺の真実を公表すると書いている。鈴木氏は大学在学中から13年以上中川氏の秘書を務めた。
手記によれば、中川氏の自殺の原因は色々と取り沙汰され、中には「鈴木が(中川)先生を殺した」というものもあった。自殺の2年後に出た「文藝春秋」85年1月号には貞子夫人が死の引き金は鈴木氏だとし、「鈴木、よくも、この俺を刺したな!!お前に、俺は殺された。俺は死ぬしかない」と怒鳴り、20~30回殴り続けた、といった内容の手記を発表。
同誌2010年10月号では、今度は昭一氏の妻の郁子さんが、貞子さんが明かしたのと同じ光景を目撃した、と書いている。こうした内容について、
「貞子夫人が書いているやり取りは事実に反しており、ましてや郁子さんはその場にいなかったと断言する」
などと反論している。
では、自殺の原因は何なのか。鈴木氏の手記によれば、中川氏が極度の鬱状態に陥ったのは自殺の前年の1982年11月27日。中川氏は24日の総裁選に出馬し敗れている。27日は福田赳夫元首相宅に総選挙後の挨拶に行き泥酔。福田氏に対し「散々俺を利用しやがって」などと思いの丈をぶちまけたという。そして「俺はやられる」といった被害妄想に襲われるようになった、という。
100万円の裏献金を誰かに暴露されることを恐れた
「俺はやられる」というのは全日空から中川氏に手渡された100万円の裏献金。それを誰かに暴露されることを恐れたというのだ。いつ報道されるのかとNHKのニュースをチェックするのが日課になっていたという。
鈴木氏が衆院選に出馬する意志を示したことは中川氏の精神的苦痛にはなったが、出馬をやめたことで円満解決しており、貞子夫人や郁子夫人が書いているような中川氏とのトラブルはなかった、という。そして、自殺に追い込んだ何よりも大きな原因を鈴木氏はこう綴っている。
貞子夫人は中川氏が鈴木氏に頼りっきりの状態に納得がいかず、「鈴木を切って、次男を秘書にしてください」「鈴木と私とどちらが大切なんですか。鈴木を切れないのなら離婚します」と強く迫ったことや、全日空からの闇献金が中川氏の悩みを深め死に追いやった、という。
両者の言い分は全く正反対なのである。