会社更生手続き中の日本航空(JAL)の差し迫った課題が、人員削減などによる大幅なコストカットだ。希望退職を募っているものの、このままでは削減目標に届かない見通しだ。記者会見では「整理解雇も覚悟」との言葉も飛び出した。
そんな中、同社が2010年10月から、一部のパイロット(機長と副操縦士)の乗務シフトを白紙にして面談に呼び出し、自主的な退職を求めていることが明らかになった。
機長は「2000万円超え」も珍しくない
この問題は、朝日新聞が朝刊1面トップで大々的に報じ、「退職を事実上強要する措置」などと会社側を猛烈に批判している。だが、JALのパイロットをめぐっては、高給批判が相次いでいた事情もある。さらに、JALが経営再建に失敗して2次破たんすれば清算され、ほとんどの社員が職を失ってしまう。それだけに、「退職は当然。むしろ、生ぬるいぐらいだ」との声も出ている。
JALが8月31日に東京地裁に提出した更生計画案によると、09年度末時点で4万8714人いるグループ社員を10年度末までに約3万2600万人にまで削減する。約3分の1にあたる約1万6000人を削減する形だ。
今回波紋を広げているのが、パイロットの処遇だ。JALには約2500人のパイロットがおり、関係者によると、そのうち約700人の削減を目指している。だが、現段階で希望退職に応じたとみられるのは約380人。残り370人を削減するための措置に対して、批判の声が出ている。
パイロットには、毎月末に、翌月の勤務シフトが渡されるが、(1)10年度の病欠日数が41日以上の人(2)50歳を過ぎても機長に昇格できずにいる副操縦士など370人を対象に、フライトが入っていない「白紙」のシフトとともに、「希望退職の必要性をご理解いただく」などとする面談通知書が渡された。面談で退職に応じれば、シフトにフライトを入れてもらえる仕組みだ。
この措置は、「週刊文春」10月14日号や、朝日新聞10月8日朝刊の1面トップで報じられ、特に朝日新聞は社会面にも関連記事を掲載。「会社に机はなく、自宅待機を強いられている。育児やローンを抱え、途方に暮れる」などと、パイロットに同情的な紙面を展開した。
労組も猛反発。航空業界の労組でつくる「航空労組連絡会」は10月8日、「事実上の退職の強要で、安全運航に支障をきたす」などとして是正指導を求める要望書を国交省と厚労省に提出している。
だが、JALのパイロットをめぐっては、かつては高給批判も相次いだ。同社の有価証券報告書によると、09年3月末時点でのパイロットの平均年齢は43.7歳で、平均年収は1834万円。この数字は機長と副操縦士あわせての額なので、機長であれば「2000万円超え」も珍しくない。
「生ぬるいぐらい。速やかに整理解雇すべき」
だが、これも「今は昔」になる。11年1月からスタートする新給与体系では、これが年収1200万円にまで引き下げられる。副操縦士の場合は、1000万円を切るケースが続出するものとみられる。
これに加えて、更生計画案を実行するためには、朝日新聞が「退職強要」と表現する手段もやむを得ない、といってもおかしくないのがJALの現実だ。同社は、9月29日の定例会見で、希望退職数が目標に届かない場合は、整理解雇も辞さない方針を正式に表明。稲盛和夫会長も
「公的資金は何としてでも返さないといけない。二次破たんは国民負担につながる」
などとし、人員削減は避けて通れないとの立場を改めて強調している。
今回の措置が「生ぬるいくらいだ」と主張するのは、J-CASTニュース「会社ウォッチ」で連載している人事コンサルタントの城繁幸さんだ。城さんは、
「カネがないんだから、やるしかないでしょう。むしろ、生ぬるいぐらい。速やかに整理解雇すべき。破たんしている会社ですし、(整理解雇のための)要件は満たしています。違法でも何でもないです」
と、さらに大ナタを振るうべきだとの立場だ。
パイロット以外も、地上職員が676万円(平均年齢44.3歳)から500万円に、客室乗務員588万円(同36.1歳)が420万円にまで引き下げられる。
社内からは、
「切られる人も、切る人間もつらい中でやっている。悲しい話だ」
との声も聞こえてくる。