北朝鮮の金正日総書記の三男、正恩氏(27)が後継者に決定したが、かなり早い段階で「後継者レース」から外れていたのが長男の正男氏(39)だ。その正男氏が、正恩氏がお披露目されてから初めて日本のテレビのインタビューに応じた。その中で、正男氏が「個人的には、3代世襲について反対」と、異例の政権批判ともとれる発言をしたことから、専門家からは「同様の発言を繰り返したとすれば、身に危険が及ぶ」と懸念する声があがっている。
「しかるべき内部要因があったのでは」
正恩氏が2010年9月末の朝鮮中央テレビなどで「お披露目」されても、正男氏の動向はつかめないままだった。韓国・朝鮮日報は10年10月4日、「消えた正男氏、マカオの自宅ひっそり」と題して、正男氏が拠点としているマカオから姿を消していることを報じている。
そんな正男氏を、10年10月9日に、北京市でテレビ朝日のカメラがとらえた。10月11日朝に報道された内容によると、正男氏はピンクのセーターと茶色いサングラス姿で登場。
記者の「長男のあなたと、次男の正哲氏もいるのに、なぜ三男の正恩氏が後継者になったのですか?」との問いには、
「やはり、父親が決断されたものだと思います。」
と、人ごとのような答え。記者が「長男として、後継者になれなくても大丈夫ですか?」とたたみかけると、
「私は、元々遺憾に思うことはないし、関心もなくて、全然気にとめてもいません」
と、はやり「我関せず」といった様子だ。また、
「個人的には、3代世襲について反対しています。ですが、しかるべき内部要因があったのではと思います。内部要因があるなら、それに従うべきだと思います」
と、父親を批判するとも取れる発言までしている。
また、正恩氏へのメッセージを求められると、
「私は、弟が北韓住民たちのために、本当に住民たちの潤沢な生活のために最善を尽くしてほしいと願っています」
と、韓国でしか使わないとされる北朝鮮を指す「北韓」という言葉すら口にした。
「マインドが半分韓国人になっている」?
北朝鮮の関係者が、メディアに対して政権批判とも取れる言葉を口にするのは異例で、専門家からは、今後の正男氏の身を案ずる声すら出ている。コリア・レポートの辺真一編集長は、
「長男だから、そこまで発言できたのかも知れませんが、お披露目のまっただ中での発言は、お披露目を台無しにすること。ただではすまされないでしょう。『世襲』という言葉に北朝鮮は敏感で、タブーのようなもの。同様の発言を繰り返したとすれば、身に危険が及ぶことになるでしょう。金正日総書記の存命中に具体的な危害が加えられることはないと思いますが、『金正日後』は、分かりません」
と警告。北朝鮮に戻ることはリスクが高いことを意識してなのか、正男氏はインタビューの中で
「私はいつでも海外で、弟が必要とする時に助ける用意があります」
とも発言。辺編集長も、
「『北韓』という言葉をためらうことなく使っていたことを考えると、(拠点の)マカオでは韓国人ビジネスマンと接していたりして、すでにマインドが半分韓国人になっているのでしょう。今後は、海外放浪生活を送ることになるでしょう」
と、北朝鮮と距離を保ったままの状態が続くとの見方だ。