1米ドル82~83円台という15年ぶりの円高水準で、外国為替証拠金(FX)取引が注目されるなかで、証拠金倍率(レバレッジ)を「1倍」にして取引する投資家が増えている。
2007年から「1倍コース」を取り扱っているマネックスグループ傘下の「マネックスFX」によると、円高の進行と相まって、2010年9月末時点の1倍コースの口座数は、1年前に比べて2.1倍に増えた。09年に1倍コースを開設した人は全体の6%弱にあたるという。
FX認知度高まり、顧客のすそ野広がる
FXというと、20倍、50倍といった高いレバレッジを効かせた、資金効率をよい取引が、投資家にとっての魅力になっている。ところが、いまレバレッジを効かさない「1倍」のFXが注目されている。
関心を寄せるのは、「FXをやってみたいが、リスクが高いので二の足を踏む」という初心者やリスクを抑えたい投資家だ。
インターネット証券大手のSBI証券は、従来のレバレッジ10倍以下、50倍以下のコースに加えて、新たに「1倍コース」を設けることにした。現在、10月下旬の取引開始をめざして準備中だ。SBI証券は、「外貨預金の感覚でFXを楽しんでもらえる、新たなコース。いままでFXに関心が薄かった顧客層を取り込んでいきたい」と意気込む。
FXの認知度が上がってきたことで、FXを試してみようという初心者は少なくない。そうした人の中には外貨預金をすでに利用している人もいて、マネックスFXは「顧客のすそ野が広がっています。(1倍コースは)初心者の方がリスクを抑えながらFXをはじめるのに利用しているようです」と話している。
断然オトクな為替手数料
NTTのFX業者、NTTスマートトレードでは、口座を開設している投資家の17.2%が「1倍コース」を利用している。「比較的シニアの方が多いのと、やはり初心者ですね」という。
「1倍コース」を使った初心者の取り込みに、FX業者が使っている「セールストーク」が、為替手数料の安さだ。銀行の外貨預金が50銭~2円(買いと売りの往復)程度なのに対して、FX業者は無料のところも少なくない。
また、為替相場の動きに、柔軟に対応できるのもFXのよさだ。外貨預金の場合は、預入期間が決まっていて、その期間中に外貨を円に換えることはできない。これに対して、FXであれば、相場が上がればその時点で売れるし、下がったら買い戻すこともできる。
意外と気づかないのが「セーフティネット」だ。外貨預金は銀行が取り扱ってはいるが、預金保険(ペイオフ)の対象外だ。つまり万が一、銀行が経営破たんしたら、預金は戻ってこない。
しかし、FXは投資家保護の規制が強化されたことで、2010年4月以降、投資家からの預託金は信託保全(分別管理)が義務付けられたので、FX業者が経営破たんしても、原則預託金は返還される。つまり、ある面銀行の外貨預金より、安心して運用できるというわけだ。
「FXはハイリスク」というイメージも、「1倍コース」であれば、あまり気にならなくなったようだ。