円高の影響で輸出産業が打撃を受けるなか、日銀は2010年10月5日の金融政策決定会合で、実質ゼロ金利政策を約4年ぶりに事実上復活させることを決めた。だが、「円高はドル安の裏返し」でもあることから「米経済が回復しない限り、円高は進み続ける」との見方も根強い。中には、「1ドル=50円」に達するとの見方をする専門家も現れた。いったい、円高はどこまで進むのか。
10月5日午後に追加緩和策が発表された直後の東京市場では1ドル=84円近くまでにまで下げたものの、欧米外国為替市場では一時1ドル=82円96銭にまで円高が進行した。82円台に突入するのは、日本政府・日銀が9月15日に円売り介入に踏み切って以来だ。このことから、今回の金融緩和策の効果は限定的だとの見方も出ている。
米経済、今後6か月~1年は弱いまま
10月6日のワイドショーに出演した専門家からも、さらに円高が進むとの見方が続出した。例えばテレビ朝日の「スーパーモーニング」によると、「ミスター円」こと榊原英資氏は、
「『円高』と言われているが、むしろ『ドル安』。日本の90年代と同様の(利益が出ても借金の返済に回ってしまい、消費が進まない)『バランスシート不況』もあって、米経済が弱い状況は、ここ6か月~1年は続く。(1995年に記録した)史上最高値の1ドル=79円75銭を超えるのではないか」
と、史上最高値を更新する更新するとの見方を示す。さらに、同志社大学教授の浜矩子氏は、同番組の中で、
「本来ならば、今の水準に、もっと昔になっていてもおかしくなかった。ドル安というのは歴史の必然。本来ならば、ドルの過大評価は終わっていて然るべきだったものが、ようやく時間をかけてここまできた。歴史の必然である以上、それが簡単に止まる訳ではない。さらに一段のドル安が進むと考えるのが自然」
と説く。
今ではドルは「裸の王様」
その結果、「雑駁な感覚で言うと、1ドル=50円」にまで円高が進むとの見方をしている。「歴史の必然」の経緯に理由については、このように説明している。
「第二次大戦後は、経済大国の通貨であるドルを持ちたかった。(ドルは)『通貨の世界の王様』だった。だが、他の国も戦後は復興してきて、米国が突出して強い訳ではなくなった。みんな『王様は裸だ』と思いつつも、知らないふりをしてきた。ここにきて、『裸の王様だ』と言って逃げてしまった方がいい感じに、みんななってきている」
また、ある外国為替証拠金(FX)業界の関係者は、日米の物価変動幅の違いを理由に、
「現在のような状況が続くのであれば、中長期的に『1ドル=60円割れ』も視野に入れる必要がある」
と指摘する。1995年に1ドル=79.75円を記録した時の米消費者物価指数(CPI)を100とすると、現在の米CPIは140。それに対して、日本の同期間のCPIは、ほぼ横ばいだ。つまり、95年の「1ドル=79.75円」は、現在の価値に換算すれば「1ドル=57円」に等しい、というのがその理由だ。
さすがに「1ドル=50円」を唱える専門家は必ずしも多くないようだが、やはり円高傾向は進むとの見方で一致している。