2011年春の九州新幹線全線開業を控え、開業までの日数を示すJR九州の「カウントダウンボード」にケチが付いている。熊本駅(熊本市)で2010年9月16日に予定していた除幕式を急きょ、中止したのだ。
ボードに描かれていたのが、鹿児島ゆかりの西郷隆盛をモチーフにした絵だったことが分かり、熊本市民から「熊本の玄関口にふさわしくない」と猛反発が上がったためだ。九州内の歴史的なわだかまりが、九州を横断する高速鉄道の誕生という祝賀ムードに水を差した形だ。
熊本市民「西郷さん」キャラクターに反発
JR九州とJR西日本は9月15日、九州新幹線の全線開業日を「来年3月12日に決定した」と華々しく発表した。福岡市で会見したJR九州の唐池恒二社長は「九州がアジアからの魅力的な旅行先になる」と力強く語った。
JR九州は発表に合わせて、開業までの機運を盛り上げるため、JR博多駅(福岡市)と鹿児島中央駅(鹿児島市)、熊本駅の主要駅3駅にカウントダウンボードを設置すると発表。ボードには、明治維新に活躍した薩摩藩士「西郷さん」のマスコットキャラクター「西郷どーん」を取り入れ、着物姿の西郷さんが刀をもっている姿が大きく描かれた。
しかし、ボードの内容が明らかになると、熊本市民からは反発が続出。「なぜ、わざわざ熊本に西郷さんを飾るのか」「熊本城を築いた加藤清正など、熊本には他に偉人がたくさんいる」「熊本は鹿児島までの単なる通過点という意味なのか」など批判が絶えなかった。
そもそも、西郷さんと熊本との関係は複雑だ。西郷さんが率いた国内最大の内戦と「西南戦争」(1877年)で、熊本の人々の精神的な支えとされた熊本城は西郷軍の攻撃で焼失。熊本県全域が戦場になり、市中心部は火の海になったとされる。西南戦争から130年以上がたつが、熊本人が西郷さんを手放しで受け入れられない土壌があるのは間違いない。
「死に装束だ」との抗議が殺到
これに対し、JR九州は「西郷さんのキャラクターを起用したのは、九州を代表する著名な人物であり、南から北上していくイメージがあるから」と、西南戦争前の幕府討伐で九州から攻め上がったことを強調。「決して熊本を軽視したわけではない」と困惑しきっている。ボードのデザインについては現在、熊本県のマスコットキャラクター「くまモン」に変更することが決まった。
一方、関係者からは「JR九州側の配慮が足りないことが問題」と新たな批判も上がっている。ボード問題に対する熊本市民の不満がまだ収まらない中、JR九州は博多駅と鹿児島中央駅のボードに描いた「西郷どーん」の絵を修正した。着物が誤って「左前」に描かれており、「死に装束だ」との抗議が殺到したためだ。
カウントダウンボードの数字が日ごとに減っていくのに反比例するかのように、JR九州の失態に対する批判はじわじわ高まっている。