「みちびき」打ち上げ成功 日本版GPSの成否不透明

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   米のGPS(全地球測位システム)を補完する衛星「みちびき」が打ち上げられ、2010年9月27日、予定した日本のほぼ真上(準天頂)の軌道に投入することに成功した。6月に7年半のたびを終えて奇跡の帰還を果たした小惑星観測機「はやぶさ」に続き、日本の宇宙開発は好調だ。ただ、長期的な戦略の欠如は相変わらずで、「みちびき」の成功も、長期的な成否は不透明だ。

   GPSはミサイルなどを誘導するために米国が軍事用に開発したシステムで、地球を周るGPS衛星から位置情報が発信され、地上に届くまでにかかった時間を計算して自分の位置を割り出す仕組み。一般向けに出される信号を無料で使えるので、カーナビなどに活用されている。

GPSとの組み合わせで測位誤差は数センチ~1メートルに

   位置を正確に特定するにはシステム上4機の衛星から同時に信号を捉えることが必要だが、高層ビルの谷間や山間部などは電波がさえぎられることが多く、現在は10メートルの測位誤差がある。 この弱点を補うのが 「みちびき」の役割。GPSと組み合わせることで、測位誤差は数センチ~1メートルに縮小でき、道路の左右どちら側の歩道にいるかを地図上で判別できるようになる。

   こうした利点を生かし、例えば逆走を検知してすばやく対処するとか、携帯電話によるナビの位置も正確に割り出せるので、携帯からの110番で警察の現場到着が早くなると期待される。さらに、携帯の位置を自動的に割り出し、史跡の解説をながすなど観光関連ビジネスも検討されている。

   防災関連でも、例えば海面にブイを置いておき、その動きを衛星で把握し、津波の発生や規模をよりも早く正確にキャッチすることも可能という。子どものお守り、農業の施肥の精密化などへの応用も考えられる。こうした幅広い利用を目指し、2010年末から101社58件の利用実験が始まる予定だ。

   だが、現状では実用化の見通しは立っていない。「みちびき」が日本上空をカバーするのは、軌道の関係で1日8時間に限られるため、常時カバーするには最低3機、GPSに頼らない独自の安定的なシステム構築のためには7機必要と指摘される。

   しかし2機目以降どうするのか、政府として方針が決まっていない。1機めで735億円かかっており、これを3基体制にはさらに約700億円が必要な見通しのため、「巨費投入に見合う波及効果があるか、慎重な検討は必要」(関係者)と、腰が定まっていない。

米露に続き欧州、中国、インドも独自システム整備中

   だが、世界では測位衛星の自前整備が大きな流れになっている。既に運用中の米露に続き、欧州や中国、インドも独自のシステムを整備中。欧州委員会は、測位関連サービスが25年には世界で50兆円超の市場になると予測しているが、各国の根本的な狙いは安全保障だ。

   GPSは航空機や船舶の公共交通機関のナビゲーションや精密測量など暮らしや経済活動に必要不可欠な社会インフラになってきている一方、米国の都合で使えなくなる恐れもあるのだ。現実に、旧ユーゴ・コソボ紛争でGPSの精度が極端に落ち、ヨーロッパの航空網が混乱したという。

   敵に利用されることを警戒した米軍が一般向け電波を制限したと見られている。GPS信号が受信できなくなれば公共交通などが混乱しかねない。日本情報処理開発協会の試算によると、GPSの情報が停止された場合の国内経済への影響は1時間以内でも520億円、半日以上では4320億円以上に及ぶ。こうした事情を考え、各国はGPS依存からの脱却を目指しているわけだ。

   実は、「みちびき」と似た機能を持つ「運輸多目的衛星」を国土交通省が打ち上げ、3年前から、航空機のナビゲーションに使われている。「みちびき」との共同開発の声もあったが、国土交通省側は応じなかったという。まさに縦割りの弊害だ。

   政府は2009年、宇宙開発基本計画を定め、宇宙技術の利用重視の方針を打ち出した。08年に発足した宇宙開発戦略本部(本部長・菅直人首相)は、2機目以降について検討する各省の政務官による組織をつくり、2011年夏までに2機目以降について結論を出す。縦割りを排して、政治主導で日本版GPSの国家戦略をまとめられるか、課題は重い。

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