首相退陣後の「今期限りの引退」を「ひとまず撤回」した鳩山由紀夫・前首相(63)に対し、朝日新聞や産経新聞の担当記者が、引退するよう紙面で勧告した。先の民主党代表選では「調整役」を買って出たほか、尖閣問題でも「自分にやらせろ」といわんばかりの発言。一度は引退を明言したことなどすっかり忘れ、大張り切りの姿に「まゆをひそめる」人は少なくない。
「辞職求める地元の声を聴け」。2010年9月29日付の朝日新聞朝刊で、「北海道報道センター 若松聡」氏は、「鳩山氏は早期に議員辞職すべきではないか」と、「記者有論」欄で主張した。
「きれいに政界から身を退いたらどうだろうか」
同朝日コラムは、鳩山氏の後援会が鳩山氏に「『今期限りの引退』の撤回」を求める署名を9月22日に渡したという動きを紹介している。鳩山氏は現在、「引退」を「ひとまず撤回」し、「保留状態」にしている(メモ参照)。後援会の動きは、「引退の完全撤回」「来期の立候補」を求めていることになる。
その上で同コラムは、「支持者もあきれているんだよ」などの地元議員・支持者らの「失望」の声を伝えている。そして、大きな失望を与えた「政治責任をとるために」鳩山氏に議員辞職するよう促した。
また、「鳩山前首相に引退を勧める」と「3段格」の大きな見出しで伝えたのは、9月26日付の産経新聞だ。「日曜日に書く」欄で、「政治部 阿比留瑠比」氏が書いた。
尖閣諸島を巡る中国漁船衝突事件について、鳩山氏が「自分が首相ならもっとうまくやっていた」とでもいうような発言をしていることなどを批判している。そして、鳩山氏の7月参院選時の街頭演説発言を引用しながら「本当に『生き恥』という自覚があるなら、ここらできれいに政界から身を退いたらどうだろうか」と迫った。
同産経コラムでは、先の民主党代表選を巡る鳩山氏の言動について「まゆをひそめる向きは政界にも多く(以下略)」として、民主党内からも「もう辞めてほしい」などの声が挙がっている、と伝えている。
「慰留といってもお愛想の部分もありますし」
先日、鳩山氏の中国漁船衝突事件に関する発言が注目を集めた。9月25日、鳩山氏は「私だったらこの問題をどうすべきか、中国の温家宝首相と腹を割って話し合えた」と記者団に語った。この発言を報じた産経新聞などの配信ニュースは、人気サイト・ヤフーのニュース・ランキングで上位につけた。
とはいえ、決して鳩山氏に期待する空気の反映、というワケではないようだ。鳩山発言記事に触れた多数の個人ブログや2ちゃんねるなどの反応をみると、「おいおい、やめてくれ」「(オバマ大統領への)トラスト・ミー発言などで普天間問題の混乱を招いたことはスルー(無視)か」といった否定的な捉え方が多数見受けられた。
先の民主党代表選告示前に「トロイカ(菅・小沢・鳩山)」を連呼し、菅・小沢両氏の「調整役」としてテレビカメラの前に立った鳩山氏。結局不調に終わるや「(菅首相から)だまされる悔しさを味わった」と発言したニュースが流れると、少なからず失笑もかった。
鳩山氏の地元後援会は、本気で鳩山氏を慰留しているのだろうか。先の朝日コラムによると、集まった「引退撤回要求」署名は、「24ある地方後援会の役員を中心に653人」だそうだ。この数を多いとみるか、少ないとみるか。
鳩山氏の選挙区内のある民主党系市会議員は、「慰留といってもお愛想の部分もありますし、その辺は(鳩山氏)ご自身も分かってるとは思うのですが……」と話していた。
<メモ:鳩山前首相の引退発言と「撤回」の経緯>
鳩山前首相は2010年6月の首相辞任時、テレビカメラの前で「次の総選挙には出馬致しません」と明言した。09年夏の衆院選直前にも、「首相まで極めた人がその後、影響力を行使することが政治の混乱を招いている」と、自民党のキングメーカー、森喜朗・元首相などを念頭に批判し、首相退陣後は次の選挙には立候補しない考えを記者団に語っていた。
しかし、鳩山氏は首相退任から約1か月後の10年7月、北海道の地元後援会の会合で、引退問題について、11年春の統一地方選のころを目安に結論を出す、という考えを示した。「今期限りの引退」を「ひとまず撤回」し、保留状態へと半歩後退させた形で、後援会側から慰留する声が出たことを受けた措置ということになっている。