尖閣諸島を巡る日中対立は激しくなるばかりだが、中国人はこの問題をどう考え、感じているのか、現地で聞いてみた。
「真っ向から対立する二人が、目の前にある数字が『6』か『9』かで争う。結局、両者はまったく理解しあえない」
南京在住の日本文化の専門家は日中関係の現状をこう例えて嘆く。
尖閣列島で逮捕された船長は、その直後に祖母が亡くなった。葬儀にも出られない。9月22日は中国の伝統的な祝日の「中秋節」。その日までに釈放されることはなく、「だから日本はまったくひどい」と中国の民間人はまじめに考えている。日本にこんな話を伝えても、理解してもらえないだろう、という。
インターネットもあり、テレビも十分発達している現代でも、意外と意思疎通が出来ていない。そうした中で両国政府の対抗意識がどんどんエスカレートしていく。
船長逮捕は周到に計画、という陰謀論が流行
そもそも船長の逮捕は、日本が周到に計画したものではないか、と中国側は疑っている。 いくつかのメディアは逮捕前後の日本の動きをまとめた。2010年9月4日ごろ民主党選挙に立候補した菅直人氏も小沢一郎氏もそろって領海問題、尖閣問題について口にした。その直後の7日に船長を逮捕し、10日には中国の軍事予算、海軍空軍の動きに対する懸念を、最大限の言葉をつかって書いた『防衛白書』が公表された。船長の逮捕は、これからの軍事力増大をもとめる防衛計画の地ならしと中国では受け取られている。
「小泉元首相はA級戦犯については触れず、とにかく靖国神社を参拝する。歴史は歴史家に任せると言った。今度はまず中国船長を逮捕し、その後は、三権分立と称して、裁判所に任せる態度を取っている」。
日本研究家でもこんな不満をこぼす。
中国政府が態度を硬直化させる背景には、謀略論や「ジャパン・スタンダード」への反発がある、と現地の外交専門家は見る。
真の日本理解者も政府部内に不在
政府部内に日本理解者、知日派がいないことも事態の悪化を招いている。靖国参拝問題で日中関係が大きくきしむ時代は、中国上層部に唐家セン国務委員(副総理級)という日本専門家がいた。しかし、現在、戴国務委員というロシア専門家、外交部では長年にわたって共産党関連の仕事をしてきた人物が外交を指令している。戴国務委員は、自ら休日の未明に丹羽宇一郎大使を外交部に呼び、抗議するという破天荒的な行動をする人である。
また、日中関係がぎくしゃくしている時期に、かつては王毅という大物大使が日本にいた。いまはそのような外交官もいない。
中国駐在日本大使が未明に呼ばれて抗議されたことに対して、「非常に無礼」という日本のマスコミ報道はそのまま中国にも流された。ただ、これも中国には理解されていない。法律にのっとって粛々と処理していくという日本側の言葉も、言い逃れだけのように中国では聞こえる。
「虎に乗ったら降りられない」(騎虎難下)という中国のことわざがあるが、中国だけでなく、日本もまた現在は世論という「虎」に乗っていて、降りたとたんに虎に食われる恐れがある。これは危険な状態だ、と専門家は警告している。