大学生の就職活動早期化見直しについて、具体的な動きが出てきた。勉強の妨げになるとかねてから問題視され、「見直すべきだ」とかけ声はあがっていたが、実質的にはほとんど実行には至っていなかった。採用試験の時期を遅くする動きは、果たして広がるのだろうか。
「三井物産や三菱商事など大手商社が検討に入った」。採用試験の時期を現行の「4月ごろ」から遅くできないか、と模索する動きをNHKが報じたのは2010年9月18日だ。
「夏休みに面接」の企業も
現行では、多くの大学生が3年生の秋には就活をはじめ、中には夏からスタートする人もいる。大手企業が4年生の4月から採用試験を始め、6月ごろまでに実質的な内定を出すようになっている。
NHKによると、近く大手商社の担当者らが会議を開き、採用試験を遅くするにあたっての課題を話し合うという。ある商社にきいてみると、「そういう動きは確かにある」との答えだった。
一方、すでに面接などの採用活動を、従来の春から大学夏休み期間の「8月から9月上旬」へ遅らせた企業も出ている。キヤノングループのキヤノンマーケティングジャパン(東京)だ。
同社広報部によると、09年末の段階で「4月に採用計画発表、学業に支障が出ないように夏休み期間に選考を実施する」と同社サイトなどで発表した。実際に発表通り実施し、「例年より2~4か月遅い」流れとなった。勿論周囲の企業よりも数か月遅いテンポだ。
同社の狙いには、学生生活・学業への悪影響を最小限にすることのほかに、年度末までの企業業績を見届けた上で4月に採用計画を発表した方が誠実な取り組みだ、との判断もあった。
就活時期を遅らす取り組みについて、他企業から問い合わせもあり、就職サイト関係者などから「賛同している会社や関心を持っている企業が多い」との間接情報も多く届いた。参加学生が同社サイトで書き込めるアンケートでは8割方が好意的だったという。今回の取り組みの是非については今後検証することになるが、今のところは「来年以降も続ける予定」だそうだ。
大学側要請ににじむ危機感
「就活早期化見直しの動きは、商社以外でも今後出てくるのではないか」。ある大学関係者はこう期待を口にした。
企業と大学側の代表者でつくる「就職採用情報交換連絡会議」が9月14日開かれ、来11年度の就職・採用活動に関する合意事項を確認した。恒例行事で、ほとんど「お決まり」の文言が続くが、複数の関係者によると、今回は大学側団体「就職問題懇談会」の企業側への「要請」が、「これまでより強い危機感を表明した内容」だという。
企業側の早期化防止の取り組みについて、結局実態は是正されていないと指摘し、「大学教育への深刻な影響を、これ以上看過することは忍び難い状況です」と訴えている。
ある商社関係者も、「14日の連絡会議の話を受け、商社以外にも見直しに向けた動きが出てくるのでは」との見方を示した。「例年より強い危機感をもった大学側からの要請」を受け、企業側も重い腰をあげるのでは、というわけだ。
もっとも、ある大手金融機関に話を聞くと、「(採用時期を遅くする取り組みは)今のところ検討していない」との回答だった。就活早期化見直しに向けた動きは出始めたものの、急展開・拡大するかどうかは未知数のようだ。