九州新幹線長崎(博多-長崎間)ルートでの導入に向け開発が進められているフリーゲージトレイン(FGT、軌間可変電車)について、国土交通省 の技術評価委員会が2010年9月初旬、車両開発だけでなく、レールの改良も必要だとする結論をまとめた。急カーブの走行で速度目標が達成できなかったためだ。
長崎ルートは2018年の開業を目指しているが、FGT開発にケチがついた形で、開業に影響が出る可能性が強まっている。
急カーブでは現行の特急より10~40キロ遅い
FGTは、線路の幅が異なる新幹線と在来線の双方の軌道で運行できるよう、車輪の間隔を自在に変えられる電車。長崎ルートは新幹線と在来線を同じ車両が走る国内初の方式を目指しており、鉄道建設・運輸施設整備支援機構がFGT開発を進めている。
これまでの走行試験では、在来線の直線区間で最高時速130キロを達成したほか、新幹線区間でも同270キロの目標をクリアした。しかし、在来線の急カーブでは現行の特急より10~40キロ遅い時速でしか走行できず、現行特急と同じスピードで走れるという目標を達成できなかった。このため技術評価委は車両と同時にレールの改良が不可欠であると判断した。
FGTの車両は構造的な問題から従来車両より重い。急カーブの走行で目標速度に達しなかったのは、重さがレールに負担をかけるためでもあり、今後は車両のいっそうの軽量化や小型化に加え、レールの継ぎ目を減少させるなどの改良が必要になるという。
「いずれ開発断念するのでは」との見方も
だが、そもそも異なる路線幅を走るというFGTの技術確立は非常に難しいとされており、海外でも実用化例はスペインなどに限られる。国内では1994年に研究開発が始まったが、実用化に対する疑問の声は消えず、「いずれ開発を断念するのでは」(関係者)との見方は少なくない。
今回、技術評価委が「実用化にはレール改良も必要だ」としつつも開発継続を示したことについて、「(断念の)結論を先送りしただけ」と冷ややかに見る関係者さえいる。
FGTの研究開発には既に240億円以上が投入されており、今後、費用負担への批判が高まる可能性もある。2010年8月末、前原誠司国交相(当時)は会見で、長崎ルートの未着工区間(諫早-長崎間)について、「FGTの実用化のめどが立たなければ着工しない」と言明した。国交省自身、FGT開発断念の事態を想定し、着工中の武雄温泉-諫早間も含めた全線を在来線の軌道幅としたうえで、在来線特急を運行させる検討に入ったとも伝えられている。
九州新幹線鹿児島ルート(博多-鹿児島中央間)は2011年3月12日の全線開業が正式に決定し、九州を横断する高速鉄道の誕生が話題をふりまいているのとは対照的に、長崎ルートはFGTの厚い壁の前に立ち往生しているのが現実だ。