東京メトロと都営地下鉄統合 金持ちと貧乏人の結婚は至難

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   首都東京の二つの地下鉄、「東京地下鉄(東京メトロ)」と「東京都地下高速鉄道(都営地下鉄)」の統合がにわかに脚光を浴びている。東京都側が熱心で、2010年8月から話し合いが始まった。

   別会社になっているため、乗り継ぎの不便さや割高な運賃など、利用者にすれば不便で非効率極まりない。だが、負債、職員の身分など課題も多く、簡単に話が進みそうもない。

営団地下鉄は株式会社化されいずれ上場

   日本武道館などの最寄り駅である九段下駅は東京メトロの東西線と半蔵門線、都営新宿線が走る。実は一つのホームの両側に、半蔵門線と新宿線が停車しているのだが、ホームの中央が壁で仕切られ、階段を上がって、改札を通らなければ乗換えができない。これが「別会社」の非効率の典型として、この夏、テレビなどでも大々的に取り上げられた。

   運賃体系も異なる。初乗りはメトロ160円、都営170円で、距離ごとの運賃も都営が割高。両社線の乗り継ぎの際には、乗り継ぎ1回だけ70円割引になるが、同一の会社に比べたら割高。

   さすがに、少しは改善もされている。7月末、メトロ・日本橋駅と都営・浅草橋駅の連絡通路のシャッターの開扉時刻が15分繰り上げられて午前5時になった。これまで始発電車の乗継ができなかった不便が、ようやく解消された。

   帝都高速度交通営団(営団地下鉄)が前身のメトロは営業キロ数195キロ、09年度の年間輸送人員約23億人、営業収益3400億円、経常利益635億円。2004年に株式会社化され、国が株の53.4%、都が46.6%を持ち、いずれ上場されることになっている。

   都営は、文字通り都の直営。営業キロ数109キロ、年間輸送人員約8億5000万人、営業収益1300億円、経常利益121億円。営団の路線拡大が人口増加に追いつかないため、1958年に都が独自に路線整備に乗り出したものだが、建設費の高い時期に、採算性の低い路線を開いたため、赤字に苦しんできた。

   都営は2006年度から単年度では黒字になっているが、09年度決算で、累積損失額が4300億円、長期債務は1兆1000億円に達する(メトロは7300億円)など、財務的には「優良会社」のメトロに水をあけられている。

   両社の統合はかねてからの東京都の主張だが、事態が動いたのは6月下旬の東京メトロ株主総会。出席した猪瀬直樹副知事が、都と国の協議機関設置を提案。これを受けて8月3日に都、国交省と財務省、東京メトロが集まった第1回の協議が行われ、9月8日にも第2回が開かれた。

メトロ子会社の役員平均年収約1200万円

   メトロの株式上場のめどは立っていないが、都は、メトロが上場してからの統合は困難と見て、統合を急ぐ。特に石原慎太郎知事の任期が2011年春までのため、これまでにメドをつけたいようだ。

   だが、国側はおいそれと同意しない。株式会社化後、コスト削減や利用者の利便向上など「民間感覚」の注入に励み、かなり定着してきたと自負。実際に収益を伸ばしてきている。そこに「親方日の丸意識が染み付いた都営職員が来れば、また一からやり直し」(国交相筋)と心配する。さらに、国の財政事情として、株式上場で3000億~4000億円の上場益を期待する財務省には、「金持ちが貧乏人と結婚するのは嫌というのがある」(石原知事)。

   もうひとつ、都営職員3000人の身分問題が「財務以上に高いハードル」(都幹部)。民間会社への転籍への同意を一人ひとり取り付け、拒否する人は他の部局に異動させる…といった作業が必要になるが、営業に支障なく進めるのは至難の業で、「特別法でも作らないと統合は無理では」(都関係者)との指摘もあり、まだまだ統合の議論には時間がかかるとの見方が強い。

   9月8日の第2回協議では、メトロ子会社12社の役員計41人中39人がメトロの出向者やOBで、平均年収が約1200万円になる実態が明らかになり、猪瀬副知事が協議後、記者団に「メトロは税金を使って独自の世界を作り上げようとしている。非常に閉鎖的な状態だ」と批判する一幕もあった。そんな都側の活発な動きに、「猪瀬副知事は、統合の道筋をつけ、その成果を引っ提げて来春の知事選に討って出るのでは」(議会関係者)といった声も出ている。

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