屋根に太陽電池を搭載して発電し、車内の照明に使う世界初の路線バスが2010年9月1日から岡山市内で運行を始めた。乗用車ではトヨタプリウスが屋根に太陽電池を搭載し、車内換気の電源に用いるなどしているが、路線バスに太陽電池が搭載されるのは世界初という。
路線バスに太陽電池を供給するのは三洋電機で、岡山県内で路線バスを運行する両備ホールディングス(HD=本社・岡山市)と共同開発した。バスはディーゼルエンジンと電気モーターを組み合わせたハイブリッドカーで、動力となるモーターの電源に太陽電池は使われないが、発光ダイオード(LED)の車内照明に利用する。
自動車への搭載は乗用車、バスともに進んでいない
太陽光で発電した電力を蓄電し、日照がない時でもフル充電で連続約9時間の点灯が可能だ。このバスは「SOLARVE(ソラビ)」と呼ばれ、今回は1台のみの導入で、岡山市内の路線を1日4往復する。
ソラビはハイルーフ型の屋根が特徴で、側面に長方形の太陽光パネルが並ぶため、通常の路線バスとの区別は一目瞭然だ。太陽光パネルを配した太陽電池は住宅などで普及が進んでいるが、実は自動車への搭載は乗用車、バスともに進んでいない。
それには理由がある。太陽電池を製造する大手電機メーカーによると、「自動車は加速と減速を繰り返すほか、振動も多く、事故で衝突する可能性さえある。シリコンをガラスで覆った太陽光パネルにとっては過酷な使用環境にあり、自動車に搭載する以上は高い技術力と耐久性を求められるからだ」という。
乗用車でルーフに京セラの太陽電池を搭載しているプリウスも、炎天下に車を駐車した場合の車内換気の動力などとして使っている程度。現状では太陽電池の利用はこうした副次利用にとどまっている。プリウスはもちろんハイブリッドカーだが、太陽電池で発電した電力を動力モーターの電源として使うことは現状では実現しておらず、自動車への太陽電池の本格的な普及は世界的に進んでいない。
バスの車両価格は通常の約3倍
普及しないのは、耐久性とともに、コストの問題も大きいようだ。今回の両備HDの路線バスの車両価格は通常のバスの約3倍にもなるという。しかし、大手電機メーカーによると、「技術的には太陽電池だけで電気自動車を走らせることは可能だ」という。事実、シャープ製の太陽光パネルをボディーに埋め込んだ専用のソーラーカーがオーストラリア大陸を横断するレースで優勝するなどした実績がある。「太陽電池で発電した電力をリチウムイオン電池に蓄え、電気自動車の動力として使えば、100%再生可能エネルギーの究極のエコカーが誕生することになる」(大手電機メーカー)。
自動車への太陽電池の搭載は発展途上にあるが、公共交通機関の路線バスに導入された意義は大きい。車内の照明を再生可能エネルギーで賄い、しかも省エネにすぐれたLED電球というのは、近未来を感じさせる。