電子書籍ビジネスが多様化の兆しを見せ始めた。出版物のデジタル版を1冊まるごと提供するのではなく、記事単位で販売したり、主要記事だけを配信したりするサービスが登場している。
「読みたい記事だけ選んでダウンロードできる」となれば、読者にとっても好都合だ。ただ現時点では、雑誌発売日と同時にデジタル版が出ないケースもあるなど課題も残っている。
プレゼン資料作成に役立つ?
データベース事業を手がけるジー・サーチは2010年9月1日、電子書籍や雑誌の販売サービス「G-Searchミッケ!」を立ち上げた。ビジネス誌や調査報告書のデジタル版を配信するが、最大の特徴は、記事ごと、章ごとに「切り売り」している点だ。
1冊の雑誌が、特集や連載、コラムなどに切り分けられ、PDFファイルで販売されている。特別なビューワーも必要ないため、アイフォーン(iPhone)やアイパッド(iPad)を使ってデジタル版の記事をダウンロードすれば、そのまま閲覧可能だ。
ジー・サーチのデータベースビジネス部は、ビジネスパーソンがプレゼン資料をつくる際、「調査データの第1章だけ必要」「参考になるのはこの特集」といった場面でニーズに応えられる、と話す。移動中の電車で中吊り広告を見て、気になった記事だけを手に入れられる手軽さもウリのようだ。
ソフトバンクが2010年6月1日に始めたコンテンツサービス「ビューン」の場合、新聞・雑誌合わせて31種類をアイフォーンやアイパッド向けに提供する。ビューン用の無料アプリケーションを使って、雑誌は主要な記事が「紙版」と同じレイアウトで読め、新聞は特別に編集された内容が配信される。西日本新聞などは、日付が変わるとすぐに配信され、朝刊の配達時間よりずっと早い。
データ化作業に費やされる時間の短縮が課題
いずれのサービスも、急速に普及が進むスマートフォンのユーザーをターゲットにしているようだが、課題もある。「G-Searchミッケ!」の場合、デジタル版の配信日は、紙の雑誌の発売日から若干遅い。配信用のデジタルデータは出版社側からジー・サーチに提供されるのだが、データ化作業に費やされる時間によって配信のタイミングが左右されてしまうようだ。
「ビューン」の場合は、サービス開始直後にアクセスが殺到して、たった1日で長期間の配信停止に追い込まれた。その後、Wi-Fi(無線LAN)ネットワーク経由に限ってアイパッドやアイフォーンへの配信は再開したものの、システム面で若干の不安が残る。
改善の余地はあるが、読者のニーズに合わせて柔軟に対応する「電子書籍サービス」は、今後も増えそうだ。