JR九州とJR西日本は、2011年3月に全線開業する九州新幹線と山陽新幹線の鹿児島中央-新大阪間の直通運行ルートに、最速列車となる「みずほ」を投入する検討を進めている。「みずほ」の同区間の所用時間は、既に導入が公表されている「さくら」の4時間を切り、3時間47分となる見込み。
JRが新列車投入で時間短縮を図るのは、全線開業後には避けられない航空機とのし烈な顧客争奪戦を意識しているからだ。
「みずほ」は朝夕運行、出張客の利用に照準
関係者によると、「さくら」は1時間に1本の運行予定であるのに対し、「みずほ」は朝夕の限られた時間のみ運行、主に出張客の利用に照準を当てる計画という。停車駅は熊本や広島など主要駅に絞り込み、スピードアップ化を実現したい考えだ。ただ停車駅の選択は、地元自治体などの意向を考慮する必要があり、調整が難航することも予想される。
JRが「みずほ」投入で狙うのは、最大のライバルとなる航空会社対策だ。鹿児島中央-新大阪間の所用時間は「さくら」で現状より1時間程度速くなる。しかし、航空機を利用した場合、鹿児島-大阪(伊丹)間の飛行時間は約1時間10分。もちろん、航空機の場合、空港までの移動や荷物の預け入れ・受け取りなどに相当の時間が必要で、「鹿児島-大阪間でも約3時間はみておく必要がある」(関係者)とされ、「さくら」の4時間という所要時間は、航空機への対抗としては物足りないとの声があった。
そこで打ち出したのが「新幹線で3時間台」。鉄道関係者の間では、これで対抗できる」との期待が高い。実際、鹿児島空港(鹿児島県霧島市)は鹿児島市中心部から移動する場合、30分~1時間程度はかかる。現状では鹿児島-関西間の利用者の8割超は航空機を使っているとされるが、「鹿児島-関西間ではかなりの客がJRに流れるだろう。『みずほ』投入で流出に拍車がかかる可能性もある」との見方も地元関係者から出ている。
これに対し、航空業界側は危機感を募らせている。航空会社によっては、新規路線を開設し、格安料金で提供しようという動きも出てきた。スカイマークは9月に鹿児島-神戸線(1日3往復)、10月に熊本-神戸線(同)をそれぞれ新規就航する。
最も注目が集まるのが「みずほ」の運賃
平日の普通運賃(片道)はいずれも1万2800円で、現状の大手航空各社のほぼ半額程度という低料金だ。ある関係者は「スカイマークの料金なら新幹線に十分対抗できるはず」と話す。
そこで、最も注目が集まるのが「みずほ」の運賃。スカイマークによる格安料金設定を皮切りに、「航空運賃の値下げの動きが出てくるだろう」と見る関係者は多い。日本航空をはじめ航空業界の経営環境は厳しく、どこまで値下げできるかは不透明だが、ある航空会社は「同業他社の動きを注意し、必要に応じて(値下げに)考えねばならない」と打ち明ける。
JR側は、まだ開業後の運賃設定を明らかにしておらず、JR九州は「9月下旬か10月初めをめどに運賃認可を申請したい」としてい る。JR側は航空各社の動きをにらみながら慎重に検討を重ねている模様で、鉄道対航空機の争いは今後、運賃を軸に激化しそうな見通しだ。